研究課題/領域番号 |
19K04945
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分25030:防災工学関連
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
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研究分担者 |
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
下田 玄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (60415693)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2019年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 十和田カルデラ / 火山活動 / モニタリング / 水質 / 安定同位体比 / 水素・酸素安定同位体比 / 溶存化学組成 / 火山活動モニタリング / 化学組成 / 十和田湖 / 湖水 / 採水 / カルデラ / 湖水の水循環 / 同位体比 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,カルデラ湖である十和田湖の湖底より火山性流体(熱水やガス)が湧出している可能性が高い点に着目し,火山性流体の性状(量や濃度)の変化を,湖水の水質の変化として捉えることで,間接的に十和田火山の活動状況を把握できるようにすることを目的に行われるものである.本研究の成果は,カルデラを形成するような大規模噴火を過去に経験しておきながら,現在は表立った活動兆候をみせていない十和田火山のような火山(あるいはカルデラ湖)における活動モニタリング手法の事例として,物質科学的なアプローチの有効性や有用性を計る上でも重要な研究であると考える.
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研究実績の概要 |
2022年度は年度当初に計画していた春季~秋季を通じた鉛直方向の湖水温プロファイル観測および採水調査を実施することができた.また,採水試料に対する硫酸イオンの硫黄同位体比,溶存無機炭酸の炭素同位体比の測定も実施した. 湖水の循環期から成層期を通した観測が行えたことより,深度100m付近に存在する水温極小域の温度変化の挙動を把握することができた.また,200m以深の領域についても春季~夏季と秋季とでは温度構造に差異が認められることも明らかとなった.これらの情報は十和田湖における鉛直方向の湖水循環の詳細を明らかにする上で重要な知見となる.また,各種同位体測定の結果より,十和田湖の湖水に含まれる硫酸イオンおよび炭酸成分の同位体比が,火山性流体の持つ同位体比と同等の値を有していることが明らかとなった.さらに,深度の異なる採水試料の測定結果より,硫黄同位体比については,200m以深,炭素同位体比は100m以深で火山性流体の関与が大きくなることが分かった.一方,水の水素・酸素同位体比については深度方向に対する違いは明瞭でなかった,これらの結果より,十和田湖の水,溶存イオン,ガス成分はそれぞれが異なる挙動を取りながら移動・分布していることが示唆された. 以上のように,徐々に観測データが蓄積してきたことにより,十和田湖の湖水の動きの季節変動特性,水および溶存成分の起源に関する情報,化学成分の分布特性,に関して,大まかな部分が明らかになり始めている.これらの結果に微量成分の分析より得られる知見を加えて総合的な考察を行うことで,本研究課題の目的である「湖水を用いて火山活動モニタリングを行う」ための適切な採水方法および着目成分を提示することが可能になるものと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の延長を申請している時点で「順調に進展している」とは言えない状況にあるといえるが,研究実績の概要にも示した通り,2022年度の研究活動によって得られた新たな知見が加わったことで過去3年間と比較して大きな進展がみられたと考えている. 本研究課題の目的を達成するために明らかにする必要がある事項は,主に(1)火山活動をモニタリングするための着目成分の提示,(2)適切な採水方法の提示,(3)適切な採水時期に関する提示,の3点であると考えている.今回,同位体測定の結果より,十和田湖の200mより深部の領域で火山性流体が湖水に付加されている可能性が高いことが示された.これにより,モニタリングに際する着目成分の選定に関して,候補の絞り込みが可能となった.また,水温分布およびその季節変動項についても明らかにされてきていることから,湖水循環の様相についても推測できる素地が整いつつある.さらに,化学成分濃度および同位体比の分布特性に関する知見も得られており,これらを総合的に理解することで,湖水の循環を通じた化学成分の挙動についても考察を行う事が可能である.そのため,採水方法(採水時期や採水深度など)の提示についても一定の目途が立った状況にあるといえる. 新型コロナウイルスの流行による行動規制の影響もあり,研究分析担当者のいる産業技術総合研究所への出張のための日程調整が難しかったことから,微量成分の分析が終了できていない点が唯一の課題として残されたが,微量成分分析用の資料については化学的な前処理を終えた上で試料を保管できており,後は機器分析を待つだけの状態であることから,最終年にデータを出すことが十分に可能な状態にあると考えている. 以上の事由により,延長申請を行った際に再度,企画しなおした研究計画の中における進行状況としては,「おおむね順調」であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
4年の時間を要したものの,これまでに行ってきた観測により,研究目的を遂行する上で必要な最低限の情報は得ることができたと考えている.そこで,修正した計画の最終年にあたる今年度は,主にデータ解析と結果のまとめ,および研究結果の公表を中心とした活動を行う予定である.ただし「進捗状況」の欄でも触れたように,観測・実験作業の工程として,唯一残されている微量成分の分析を最優先に取り組むことにし,可能な限り早い段階で全てのデータを揃えることに取り組んでいく.また,これまでに採水した試料の中で,予算の都合上,水の水素・酸素同位体測定を実施していないものが残されているが,これら試料についてもデータ解析を進める中で,必要性の高いと判断された試料については追加での外注分析を実施する.以上の作業については年度の上半期で終了できるようにし,残った時間で総合的なデータ解釈を進めていく. 結果の取りまとめを行う中で学会発表も計画しており,それらの機会を活用して湖沼研究の専門家らとも積極的な議論を行い,研究代表者の考察やデータの解釈の妥当性について十分な検証を行っていく.以上の様に,計画の最終年である今年度は大がかりな観測を行う事態は想定してしていないが,データの解釈を進めていく中で,解釈を補強するためのデータ取得の必要が生じた場合には,1回程度の湖水に対する追加観測や,湖水との比較・参照のためのデータとして十和田湖への流入河川に対する調査を実施する可能性はあると考えている.最終的には本研究の成果を踏まえた上で,十和田湖における水質変動を用いた火山活動モニタリング手法をの実施法について提案を行う.
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