研究課題/領域番号 |
19K05608
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
玉井 聡行 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究フェロー (50416335)
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研究分担者 |
渡辺 充 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究室長 (70416337)
懸橋 理枝 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究室長 (70294874)
小畠 淳平 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主任研究員 (00566424)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2019年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 紫外光照射 / プラズマ処理 / 高分子電解質多層膜 / 交互積層法 / ポリエチレンナフタレート / ポリエチレンテレフタレート / 無電解めっき / 高分子電解質多層 / 高分子薄膜・表面 / ナノ表面・界面 |
研究開始時の研究の概要 |
フレキシブルフィルム基板表面での金属薄膜形成を、(i) 真空紫外光照射もしくはプラズマ処理によるフィルム表面の改質、(ii) 交互積層による高分子電解質多層膜の形成とその膜表面へのPdナノ粒子触媒付与、(iii) 無電解めっき、の3段階を経て行う。得られる、フィルム/多層膜/金属薄膜の積層構造において、層間界面のナノスケール構造制御により、“層間界面での物質間相互作用”を高める。そして、金属薄膜の特性向上、次いでパターン形成を検討する。
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研究実績の概要 |
材料の複合化では、異成分間界面における物質間相互作用の最適化を通じた複合体の特性向上が期待される。ポリエチレンナフタレート(PEN) フィルム表面において、(1) 真空プラズマ処理もしくは紫外光照射(254 nm)による基材表面改質、(2) 交互積層による多層膜(表面修飾層)形成および膜表面への Pdナノ粒子触媒付与、(3) 無電解ニッケルめっきを経ることで、均一で密着性に優れた金属薄膜(めっき被膜)が形成され、フィルム基材/多層膜/金属薄膜の“積層構造体”が得られる。改質過程では、高分子鎖の酸化分解反応を経る極性官能基の生成、および架橋反応が進行し、そして“極性官能基を有する低分子量成分”が生成する。改質表面上の極性官能基、-CO2H, -OH基が“基材/多層膜界面”での相互作用を発現することで密着性が得られる。一方、UV/O3処理による表面改質を経た場合、金属薄膜の密着性は得られず、低分子量成分を含む脆弱な改質層の生成により“基材/多層膜界面”で剥離する。すなわち表面改質は、界面での相互作用発現に必要な一方で、不適切な条件では改質層の脆弱化に至る。 今年度は、表面改質過程と改質層の特性との関係、特にPETの改質層中の低分子量成分について調べた。PENと同様の検討を、PETフィルムを用いて行った。プラズマ処理および紫外光照射、いずれの場合でも-CO2H, -OH基の生成が、ゼータ電位および対水接触角測定などから示唆された。プラズマ処理を経た場合は、最終的に金属薄膜の密着性が得られた。一方で紫外光による表面改質では、PENと異なり密着性は得られず、親水化速度も比較的低いことなどから、極性官能基生成以外の反応も進行していると考えている。UV/O3処理の場合、PENと同じく、低分子量成分を含む脆弱な改質層の生成が、FE-SEM観察、IR分光分析などから明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り今年度は主に表面改質層の特性、特にPENとPETそれぞれの改質層の特性の差異解明に取り組んだ。PENとPETは、類似の化学構造を持つポリエステルであるが、紫外光照射に関しては、それぞれの光化学的な特性の差異に由来して、異なる改質反応が進行することを明らかにできた。これらより、本研究は概ね計画通り進行していると判断した。また、以下の課題も明らかとなってきた。UV/O3処理、すなわち酸素活性種の発生を伴う表面改質では、低分子量成分を含む脆弱な改質層が生成する。かつ、単純なウエットエッチングでは、脆弱部分の除去は困難である。そのため、高分子の酸化分解反応による低分子量成分の生成過程を制御することで、過剰な改質による脆弱化を抑制する必要がある。すなわち、表面改質の条件検討による改質層の構造制御が望まれる。それらを通じて、“積層構造体“の界面における密着性の発現、および改質層の機械特性維持(脆弱化の抑制)を図り、最終的に金属薄膜の密着を向上させることが検討課題となる。 またこれら以外に、ナノインデンター(NI)による改質層の機械特性評価および界面における密着性評価、紫外光照射条件(波長、雰囲気)の検討、Pdナノ粒子の形成とそのナノ構造制御、および交互積層における水溶性高分子の基材への吸着と成膜過程の検討にも取り組んだ。 以上本年度は、表面改質層の特性解明が、基材/多層膜界面での密着性発現に重要であることを明らかとし、それらの研究成果に関して学会発表、論文投稿(再投稿の予定)を行った。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響もあり、研究期間をさらに1年延長した。上記の成果も踏まえ、無電解めっきによる積層構造体形成とそこでの界面・表面の構造制御に取り組む。昨年度に引き続き、下記の2項目の検討を行うことで、“フィルム基材表面改質層/交互積層多層膜” 界面近傍領域(interphase)のナノスケール構造制御を行い、それによる金属薄膜の密着性など積層構造体全体の特性向上を目指す。 基材表面改質層および多層膜が形成する“界面近傍領域”における数百nm厚み部分の構造解明: 改質層の最表面の化学構造については概ね明らかとなってきた。一方で、“基材表面改質層/多層膜界面”での密着性に関しては、改質層・多層膜の内部構造も含めた、界面近傍領域の構造が重要と考えている。改質層と多層膜の最表面のナノスケールでの物理・化学的構造評価については、走査電子顕微鏡(SEM, FE-SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)等による表面形状観測、およびX線光電子分光(XPS) による組成比分析、およびゼータ電位測定などにより明らかとする。比較的分析深度(厚み)が大きいと考えられる、NIによる機械特性評価、全反射赤外(ATR-FT-IR)分光分析(購入機器)等による化学構造分析等の結果も加えた、多角的な解析により” 界面近傍領域の構造”を明らかとする。NIに関しては、基本的な押込み試験および他の測定モードによる試験により、多層膜の最表面から内部に至る数百nm厚み層の特性評価に挑む。 紫外光照射条件(波長、雰囲気)の最適化: 紫外光照射による表面改質は、その簡便な操作や二次元パターン形成などの点で優位性を持つが、上記の通り酸化分解反応と架橋反応の精密な制御が望まれる。そのため光源(照射波長)に加えて、酸素濃度等の照射雰囲気の条件検討により酸素活性種の発生を制御することで、表面改質層の構造最適化を図る。
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