研究課題/領域番号 |
19K06196
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40030:水圏生産科学関連
|
研究機関 | 京都大学 (2022) 総合地球環境学研究所 (2019-2021) |
研究代表者 |
池谷 透 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (70361590)
|
研究分担者 |
奥田 昇 神戸大学, 内海域環境教育研究センター, 教授 (30380281)
伴 修平 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (50238234)
石田 卓也 広島大学, 先進理工系科学研究科(総), 助教 (70759571)
丸尾 雅啓 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (80275156)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
|
キーワード | 有機態リン / オルトリン酸 / イオンクロマトグラフィー / リン酸酸素安定同位体 / リン酸エステラーゼ / エクトエンザイム / 微生物メタゲノム / 次世代シーケンサー / オルトリン / 酸素安定同位体 / 蛍光性エステラーゼ基質 / リン循環 / エステラーゼ / リン酸-酸素安定同位体 / 内湖 / プランクトン |
研究開始時の研究の概要 |
湖沼生態系においてリンはしばしば生物生産の制限要因になる。有機態リンを分解してオルトリン酸に変える再生過程は微生物のリン利用戦略としてもリン循環の生物過程としても重要だが、水圏の有機態リンの存在量と利用を解明する測定手法や個々の過程は未解明な点が多く理解が進んでいない。本研究では、水田から排水が流入する2つの連結内湖の湖水について、リン酸エステル分解酵素の基質特異性に基づく有機態リン分子種の分解過程と生物によって取り込まれた履歴情報を含むリン酸-酸素安定同位体の二つの側面からリン循環速度を見積もり、微生物群動態とリンの生物学的循環の有機態リンの存在量の時間的・空間的変動を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
酵素処理前後の野外試験水のろ液のオルトリン酸濃度のIC定量により、モリブデン青法(SRP)測定における強酸添加による有機態リンの非特異的分解を抑えた状態でリン酸エルテル分解酵素(アルカリホスファターゼ・ホスホジエステラーゼI・無機ピロホスファターゼ)の分解量を成分ごとに調べることが可能になった。2つの内湖では、6月以降10月に向かって懸濁物のC/PやN/P比が増加しリン制限強化が示唆されたが、7月の流入水の有機態リン濃度は10月に比べると高く、リン酸モノエステル(PM)結合成分が多かった。反対に、流入水の([リン酸ジエステル結合(PD)+ピロリン酸ジエステル結合(PP))] / [リン酸モノエステル結合(PM)]比は10月に高く7月に低かった。4月は流入水・内湖のいずれの試水もPM濃度が低く、[PD + PP]のリンプールに占める割合が大きくなっていた。分解活性を考慮すると、内湖に流入後はいずれの有機態リンもリン再生に寄与していると考えられた。孔径の異なるフィルターの濾別によってサイズ画分ごとに有機態リンの分解量を調べた結果、10月試料は0.2μmろ水画分にPMが占める割合がGF/Fろ水画分に比べて少なく、湖水中で小さな画分の有機態リンまで利用されている可能性が考えられた。PM分解酵素(APase)とリン酸ジエステル分解酵素(PDase I + PPase)の最大速度(Vmax)は、上流側の内湖では8~9月に最大・6月に最小、下流側の内湖では8~10月に最大・4月に最小となり、40~300倍ほど変動した。Vmaxは懸濁態リン濃度に比例して変動し(柳平湖でP < 0.1; 平湖でP < 0.12)、微生物密度が主な変動要因と考えられたが、半飽和定数(km)の変動はVmaxと一致せず、微生物組成や調節機構によって変動している可能性も示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機態リンの分解量測定の予備検討で、従来の阻害剤条件では分解反応によって生成したはずのオルトリン酸が、反応液に残存する微生物に吸収されるために分解量が適正に測定できていない可能性が明らかになった。分解速度が遅いジエステラーゼの分解量測定精度が特に悪かった。そこで、分解反応に添加する二価イオン濃度の最適化を検討してジエステラーゼ分解反応の最大化を図ると共に、Carbonyl cyanide m-chlorophenylhydrazoneとChloramphenicolを併用する阻害条件を新たに採用した。これらはイオンクロマトグラフィー(IC)によるオルトリン酸測定を干渉しない。阻害剤添加条件を最適化した後、現場の保存試料について分解量測定を実施した。アルカリフォスファターゼ(APase)、無機ピロフォスファターゼ(PPase)、フォスホジエステラーゼI(PD-I)の基質特異性に基づく有機態リンの定量結果が4月、7月、10月について比較可能となり、現場濃度や各有機態リン成分比(APase分解成分; PPase分解成分; PD-I分解成分)の変化が明らかになった。これらの有機態リン濃度と現場水の分解酵素活性、オルトリン酸濃度、懸濁態の元素比から示唆されるリン制限、さらに、リン酸酸素安定同位体比の変動との対応について検討し、得られた成果を日本陸水学会第86回大会で報告を行った。 現場は、2つの内湖が連続培養系のような状態で連結する構造になっており、集水域の灌漑期と非灌漑期による流入量変化に基づく滞留時間変動などの影響を強く受け、灌漑期から非灌漑期に移行した後にリン制限が強くなる季節的傾向が明らかになっている。底質からの溶出を抑える浚渫と流入量の調節を行う施工整備事業による経年変化を含めたプランクトン群集変化についても解析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
リン酸エステル分解反応で生成したオルトリン酸測定により、有機態リンの分解量を効率良く定量するイオンクロマトグラフィー分析系の開発について、モデル基質と既知のリン酸エステラーゼを用いたケーススタディとしてまとめた論文公表を行う。2つの連結内湖の湖水と水田からの流入水について、分解基質となるリン酸エステル濃度をエステル酵素種ごとに求めることができたため、リン酸エルテル結合形態の異なる有機態リンとリン酸-酸素安定同位体比の変動がどのような関係にあるのかさらに検討を進める。サイズ画分ごとの酵素活性測定の予備実験により、APase、PPase活性の89%と85%は0.2 μmより大きな懸濁物画分にあり、いずれの酵素も微生物細胞表面のエクトエンザイムとして機能していると考えられた。最大活性(Vmax)や半飽和定数(km)の季節変化も現場水を用いた測定から明らかになっている。今後は、こうした有機態リン酵素活性やプランクトン藻類・細菌類組成、また、現場での関連酵素類の遺伝子発現に研究の比重を移し、季節に応じたリン循環の実態とその変動様式を明らかにし、分解速度や回転時間と微生物組成や調節機構、ならびに、リン酸酸素安定同位体比との対応関係について議論する。
|