研究課題/領域番号 |
19K06821
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45030:多様性生物学および分類学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
町田 龍一郎 筑波大学, 生命環境系, 客員研究員 (50199725)
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研究分担者 |
増本 三香 北里大学, 一般教育部, 講師 (60458742)
福井 眞生子 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 准教授 (90635872)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 昆虫類 / 無翅昆虫類 / 受精 / 卵門 / 卵殻 / 陸上進出 / 比較発生学比較生殖学 / 比較生殖学 / 進化 / 比較発生学 / 昆虫 / 系統進化 |
研究開始時の研究の概要 |
昆虫類の「陸上進出」にあって強靭な卵膜である「卵殻」は大いに役立ったが、受精にとっては大きな障害となった。この問題は、昆虫の大部分を占める有翅昆虫類においては卵門を獲得することで解決されたが、原始的な無翅昆虫類では、シミ目が有翅昆虫類の卵門の初原とも考えられる卵殻開口部が見出されるものの、他群では、「卵殻形成前に受精が行われる」、「卵殻が硬化するまでの間に精子が卵内に侵入する」などの可能性が認められるのみである。本研究の目的は、無翅昆虫類各群の初期卵を組織学的に詳細に検討することで受精様式の多様性を明らかにし、昆虫類での受精様式の進化的変遷を構築、昆虫類の初期進化を議論することにある。
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研究実績の概要 |
起源を水域にもつ昆虫類は、乾燥した陸域環境への適応を果たしながら新たなニッチを獲得し、動物の75%を占めるまでに繁栄した。本研究は、昆虫類6主要系統群、すなわちカマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目、シミ目の原始的な無翅昆虫類5目と多様性を誇る有翅昆虫類の受精様式を組織学的に検討することで、昆虫類の陸域環境への適応、初期進化を再構築しようとするものである。しかしながら、このような検討において最重要である、受精のタイミングを捉えた十分な数の試料を揃えられずにいる。このため、本年度、検討の方向を、受精の前提である配偶および次世代産生につながる発生様式などでの陸域環境への適応へとシフトさせた。 まず、昆虫類の98%を占める有翅昆虫類 新翅類の基部分岐であるハサミムシ目の全科の比較発生学、比較生殖学的検討を精力的に進め国際誌での発表に至り、陸域環境への適応という観点からは、たとえば、卵の保護、幼虫の保育という行動様式が本目で並行的に数回獲得されたことを示すことができた。 原始的な無翅昆虫類の移精はオスが精包(精子が詰まった袋)をメスに間接的にわたすことで行われ、彼らは湿潤な土壌環境を離れることができない。イシノミ目とシミ目などの無翅昆虫類は乾燥環境への適応は見られるものの、いまだに間接的な移精を行っている。では、「陸上進出に欠くことができない、交尾器を合わせる直接移精はどのように獲得されたのであろうか」、これは昆虫類の陸上進出を議論する上で極めて重要なテーマであるが、本研究は、イシノミ目の一群が交尾器を合わせる直接移精を獲得していたことを明らかにした。すなわち、昆虫類の陸上進出の成功に大いに貢献したであろう直接移精の初原型が、無翅昆虫類で初めて確認されたことになる。現在、これに関連した論文を2編執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の所期の目的は、厳密な組織学的検討により、昆虫類6主要系統群、すなわちカマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目、シミ目の原始的な無翅昆虫類5目と多様性を誇る有翅昆虫類の受精様式を明らかにし、昆虫類の陸域環境への適応、初期進化を再構築しようとするものである。しかしながら、受精のタイミングを捉えた十分な数の試料を揃えられず、研究の進捗が難しかった。そこで、本年度、昆虫類の陸域環境への適応というテーマを、受精の前提である配偶および次世代産生につながる発生様式などの変更という観点から議論することにした。 その結果、有翅昆虫類の新翅類の基部分岐であるハサミムシ目において、陸域環境への適応につながる卵の保護、幼虫の保育という行動様式が本目で並行的に数回獲得され、また、進化にともなう発生様式の変更が起こったことを明らかにすることができた。また、陸上進出に欠くことができない有翅昆虫類が行うような交尾による直接移精の初原型を、無翅昆虫類で初めて見出すという思い掛けない成果も上げることができた。 以上のように、研究の方向性をシフトさせたものの、昆虫類の陸上進出に関する議論を深化できる議論を展開できたので、「概ね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度は本年度までであったが、本年度に新たに得られた、無翅昆虫類で初めてとなる直接移精の記載、論考が未完成であった。このため、期間延長を申請した。 最終年度となる2024年で、本年度で未完成であった記載、論考を完了させ、論文を作成、成果の公表を目指す。すなわち、イシノミ目イシノミ科ヤマトイシノミモドキ亜科のコジマイシノミで見出された直接移精の記載を行い、これにより昆虫類の陸上進出における間接移精から直接移精への進化を議論する。現在、和文原稿が完成しているので、それを英文化する。同時に、図版、サプリメントの最終調整を行うが、より良いプレゼンテーションを目指し、より解像度の高い画像を得ることに努める。原稿が完成し次第、ドイツの節足動物系統進化学の学術誌Arthropod Systematics and Phylogenyに投稿する。 研究の過程で、上記の研究材料であったコジマイシノミが分類学的に再検討すべき種であることが明らかになった。すなわち、本種には二つのシノニムがあった。また、いずれのシノニムもヤマトイシノミ亜科PetrobiinaeのHalomachilis属であるが、この属への帰属は誤りでヤマトイシノミモドキ亜科PetrobiellinaeのPetrobiellus属とすべきものであった。しかも、この亜科の誤りは重大で、まったく異なる系統学的議論に発展するほどのものであった。したがって、上記の論文の作成と並行して、コジマイシノミの分類学的再整理が必要となったのである。現在、和文原稿は完成しているので、高解像度の画像を撮りながら図版を完成、英文化を行う。完成した原稿は、ニュージーランドの動物分類学専門の学術誌Zootaxaに投稿する。
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