研究課題/領域番号 |
19K06834
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大橋 一晴 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70400645)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 種間関係 / 進化生態 / 行動生態 |
研究開始時の研究の概要 |
多くの花は繁殖失敗のリスクを避けるため、多様な動物を花粉の運搬に利用する。しかし、異なる送粉動物は形態や行動の差が大きいため、トレードオフによる送受粉効率の低下を引き起こすはずである。だとしたら、多様な送粉動物の利用は、安全確保のために送受粉の効率を犠牲にする「妥協策」にすぎないのだろうか? 本研究は、送粉動物間のトレードオフが不可避な現象ではなく、花の形質をいくつか組み合わせたときに得られる共同効果によって、しばしば進化的に解消されている可能性に注目する。とくに3つの形質セットに焦点を絞り、トレードオフの解消による多様なパートナーへの適応という視点から、花の多様性と進化を捉え直す。
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研究実績の概要 |
トレードオフ緩和をもたらす花の形質進化を明らかにするためにおこなった一連の研究で、以下の4つの成果を上げた。1) 18世紀から信じられてきた定説「左右対称な形の花は動物の訪花姿勢を安定させて受粉の精度を高める」は誤りであり、野外でみられる動物の訪花姿勢の安定化は、左右対称花の大部分が横を向いて咲くために起こる現象であることを、クロマルハナバチを用いて実証した研究成果を、実験を主導した学生を主著とする原著論文にまとめて国際誌に投稿した(近日中に受理の見込み)。2) 多くの植物分類群でくり返し進化した「密集花序」が、多様な訪花昆虫を同時利用するための表現型トレードオフ緩和戦略であるとの仮説を検証するため、ハナウドの野生集団で操作実験をおこなった。その結果、花が密集していると、どの分類群の昆虫も花の間を歩いて移動するため、身体の腹面がより多くの花の柱頭や葯に、より密着して触れるようになり、送受粉が増えることが明らかとなった。この成果は、実験を主導的した学生が、国内学会で発表した。3) 似た色の花をもつ植物種間で起こる、訪花昆虫の誘引促進(利益)と異種間移動による交雑機会の増加(コスト)のトレードオフが、異なる花香の導入によって緩和される、という仮説を、クロマルハナバチを用いた室内実験で検証した。その結果、予想通り、よく似た花色と異なる花香をあわせ持つ植物種間では、訪花昆虫の異種間移動が起こりにくい一方で、単独時より高い誘引効果が生じることが示された。この成果は、実験を主導的した大学院生が、国内学会で発表した。4) 他種と異なる色の花をもつ植物種に対して訪花昆虫が示す「定花性」が、同種個体の空間的な混ざり具合に伴って劇的に変化することを、クロマルハナバチを用いた室内実験で発見した。この成果は、実験を主導的した大学院生が2つの国内学会で発表し、うち1つの学会でポスター賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トレードオフ緩和がもたらす花の形質進化というアイデアを軸に展開した4つの研究プロジェクト(うち3つは今年度から開始した新たな取り組み)から、いずれも論文発表につながる興味深い手がかりを得た(うち1つは近日中に論文が国際誌に受理される見込み)。また、一昨年から実施してきた、課題研究に関わる別のプロジェクト(柱頭が長い花は訪花昆虫の体表の広範囲に触れる機会があるため異種花粉を受け取りやすい)もすでに終了し、その画期的な研究成果を原著論文にまとめているところである。このようなスピーディな研究展開は、当初想定していたよりも多くの大学院生がプロジェクトに参加し、精力的に取り組んでいることに起因しており、今後もさらなる発展が期待される。このような状況を踏まえ、本プロジェクトは「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、昨年度までに完了した訪花昆虫の異なるグループ間の体表花粉組成の比較研究の結果を、原著論文として国際誌に発表する予定である。第二に、一昨年から実施している「柱頭の長い花は、訪花昆虫の体表に広く触れるため異なる種の花粉を受け取りやすい」という仮説をメタ解析とクロマルハナバチを用いた行動実験で検証した結果を、原著論文として国際誌に発表する予定である。第三に、昨年度から実施してきた「似た色の花をもつ植物種間で起こる、訪花昆虫の誘引促進(利益)と異種間移動による交雑機会の増加(コスト)のトレードオフが、異なる花香の導入によって緩和される」という仮説のクロマルハナバチを用いた検証実験の成果を、原著論文にまとめて国際誌に投稿し、掲載にこぎつける予定である。第四に、今年度に引き続きハナウドの野生集団を用いたトレードオフ緩和の検証実験をおこない、論文発表に足るデータを蓄積する。第五に、異なる送粉動物間で生じる機会トレードオフの解消策としての開花時刻の進化について、これまで採りためたデータを解析して投稿論文にまとめ国際誌に発表する予定である。最後に、これまでの成果をふまえ、花の色とかたちの多様性や空間分布様式が、定花性や体表花粉付着部位の分割を通じて異種間交雑の抑制に果たす役割を、菅平高原における野外実験で明らかにするための新たなプロジェクトを、2人の大学院生と一緒に開始する予定である。
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