研究課題
基盤研究(C)
神経変性疾患の特徴として、細胞内外での毒性タンパク質の凝集体形成と蓄積が知られている。また、それらの毒性タンパク質が細胞間で伝播することも明らかとなりつつある。「脳にはリンパ系がない」というのが長年の定説であったが、近年「脳のゴミ処理システム」としてグリアリンパ系が発見され、脳内水環境の制御とその異常に注目が集まっている。グリアリンパ系では、アストロサイトが血管に伸ばした突起(足突起)でのアクアポリン4 の局在が重要である。本研究では、筋萎縮性側索硬化症の原因タンパク質の異常構造に着目し、マウス個体での毒性タンパク質の伝播を追跡するための実験系を確立し、グリアリンパ系の関与を解析する。
ALSの原因である変異型SOD1を発現させたトランスジェニックマウスでは、運動神経に毒性SOD1分子種が蓄積し、運動神経が進行性に死滅する。近年、脳からの代謝物・老廃物の新たな排泄機構としてグリアリンパ系が注目されている。本研究では、脊髄内に毒性SOD1を微量注入し、そのクリアランスをウエスタンブロット法で評価 したところ、野生型 マウスに比べAQP4欠損マウスでは排泄遅延が起こることが示された。また、ALSマウスではAQP4の顕著な発現上昇と局在異常が観察され、脳実質でのタンパク質の排出遅延が示された。以上から、ALSマウスのグリアリンパ系では、一方向性の流れの障害と淀みの発生が示唆された。
ALSの動物モデルであるSOD1G93Aマウスにおいて、AQP4による水輸送を駆動力とする老廃物排泄機構(=グリアリンパ系)の異常が示された。この異常はAQP4の発現上昇と局在の乱れを特徴とし、AQP4欠損マウス(AQP4が存在しないこと)で観察されるグリアリンパ流の低下とは、別の病態機序であることが判明した。異常タンパク質の脳内蓄積のメカニズムとして、渇水による水流不足と、洪水による淀みの発生の2つがあることを解明した本研究は、今後の創薬戦略に有用な知見を提供するものであると考えられる。
すべて 2022 2021 2020 2019
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件)
European Journal of Pharmacology
巻: 898 ページ: 173986-173986
10.1016/j.ejphar.2021.173986
Neuroscience Research
巻: 171 ページ: 74-82
10.1016/j.neures.2020.10.006
Scientific Reports
巻: 10 号: 1 ページ: 11996-11996
10.1038/s41598-020-68947-7
Acta Neuropathologica Communications
巻: 8 号: 1 ページ: 67-67
10.1186/s40478-020-00936-3
International Immunopharmacology
巻: 82 ページ: 106306-106306
10.1016/j.intimp.2020.106306
Free Radical Biology and Medicine
巻: 147 ページ: 187-199
10.1016/j.freeradbiomed.2019.12.017
Frontiers in Immunology
巻: 10 ページ: 1102-1102
10.3389/fimmu.2019.01102