研究課題/領域番号 |
19K07215
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47060:医療薬学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 俊介 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (40345591)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | 新薬グローバル開発 / 新薬開発戦略 / 有効性・安全性 / 異質性 / 臨床エビデンス / 副作用 / ローカル集団 / 使用法の最適化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、新薬のグローバルな開発経路(どの地域・国でどのような試験をどのような順序で行ったか)を分類した上で、日本人をはじめとするローカルな部分集団(人種、民族、国レベルの部分集団)に対する有効性・安全性のエビデンスが十分に集められているか、新薬の使い方(用法・用量など)についてローカルな部分集団での最適化への配慮がどの程度なされているかを、日本・米国での薬の有効率や市販後の重篤な副作用発現等に着目して明らかにする。
|
研究実績の概要 |
2022年度は本研究の目的(新薬開発のグローバル化とローカルレベルでの有効性・安全性の関係の探索)達成に向けて、次のとおりの研究成果を得た。 第一に、新薬の中でも近年特別なモードとして位置づけられている細胞治療製品及び遺伝子治療製品(CGT製品)の開発についてグローバル及び日本での開発状況を調査し、開発に係る直接の規制が開発トレンドとどのように関係するかを分析した。日本のCGT製品開発は、関連法規整備後に他国と比べて著しく増加していることが、医薬品開発規模の大きい14カ国を対象にした2000-2021年の開発データベースに基づく分析で明らかになった。一方同時期に、化学合成品やタンパク質製品では有意な増加は見られなかった。以上の結果が、法規制整備の帰結か、逆の因果の反映か(他国より日本の細胞製品開発が活発だから法整備されたのか)をさらに検討する必要があるとともに、上市されたCGT製品群の承認に際してのエビデンスレベルのばらつきがローカルの規制(の厳しさ)と関係していることから、CGT製品については通常の医薬品とは別のグローバルな有効性・安全性検討の枠組みが必要である可能性が示唆された。 第二に、前年度に引き続き、国際共同治験に見られる有害事象発現の国内外差(欧米人と日本人の違い)とその要因の探索を継続実施した。試験デザイン及び副作用の属性を回帰モデルで調整した分析を実施したほか、国内外差の添付文書等への記載について調査を開始した。 第三に、新医薬品の国内における小児適応の取得がグローバルでの小児適応開発状況とどのように関係するかの分析を実施、学会発表した。海外での小児適応取得が国内の小児適応取得と正に関係するのは当然であるが、国内小児適応をグローバル企業が取得するか否かは、それ以外にも、成人での売上高・成人での適応追加などが機会費用として働いていることを示唆する結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始から2022年度までの研究により、企業の新薬グローバル開発の様態及び戦略(試験デザインと成功率の関係、薬剤の特徴との関係など)、米国と日本の薬剤治療における健康アウトカム(有効率、副作用発現など)の差異、欧米と日本の患者のリスクベネフィット選好の特徴の分析が順に行われ、さらに、それらの相違の背景にあるローカルの開発・承認規制の役割・効果が明らかになった。 研究初年度(2019年度)は、新薬開発後期の臨床データパッケージ構築の経路とローカル(日本)での重篤な副作用発現の関係について分析を実施し、従来想定されていたパブリックヘルス上の懸念(ローカル(日本)エビデンス不足が当該地域での安全性に悪影響を与える可能性)を支持する結果を得た。研究初年度から2年度(2020年度)に実施した米国FAERS(副作用報告データベース)の分析により、副作用の自発報告が医療環境・報告者の動機によって大きく影響を受けており、欧米と日本の副作用報告の結果を単に報告数に基づき比較すべきではないことを明らかにした。新薬開発者である製薬企業の行動に関しては、抗がん剤開発参入の観察から、大小の企業が固有の強みを踏まえたプロジェクト選択・領域参入を行っている状況が分析された(分析継続中)。研究3年度(2021年度)は、日本人肺がん患者を対象に抗がん剤の作用プロファイルに対する好みを調査し、調査方法自体の相違も含め、欧米人の調査結果との比較を行うための留意点を明らかにした。研究4年度(2022年度)は、通常のグローバル開発が困難なCGT製品のローカル開発戦略を分析し、ローカルの産業育成と有効性・安全性のエビデンスレベルにトレードオフが生じうる可能性が検討された。 以上の結果から、製薬企業の新薬グローバル開発とローカルの関係について、産業論及びパブリックヘルス双方の視点からの研究がおおむね順調に進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は本研究の最終年度であり、これまで蓄積した成果を踏まえてさらに次の点を検討する。 第一に、前年度からの継続として、各国の規制当局の承認審査における有効性・安全性判断の閾値、及び、閾値の効率性の検討を続ける。どのような背景が品目タイプによる閾値のばらつきに関係するか、抗がん剤評価に用いられる種々のエンドポイントと承認の可否判断の閾値の関係を探索し、試験結果に対するFDAという米国ローカルの判断者の選好を明らかにしたい。この分析はさらに米国FDAというローカル当局と日本PMDAというローカル当局の判断・選好の違いを明らかにすることも可能とする。 第二に、ローカルにおける医薬品アクセス改善を目指して米国が実施している加速承認(accelerated approval)に注目し、「より早く」新薬を承認する際に有効性・安全性に対して潜在的に生じうるトレードオフの分析を継続する予定である。米国と同様の加速・迅速承認のスキームは日本を含む世界各国で制度として採用されており、グローバル開発環境下での自国への新薬早期誘導を目論むものであるが、そこで必然的に生じる「より早く」と「より有効でより安全な」のトレードオフについて、まずは人種差などの交絡をさほど考慮する必要のない米国での分析を行うことが適切であると考えている。 第三に、前年度まで検討を進めてきた、新薬開発における被験者集団及びエンドポイントの選択、並びにバイオマーカーの活用状況について分析を行う。有効性(効果量)とバイオマーカーを用いた患者タイプ選択の関係を探る。また早期開発段階(第1相)でのバイオマーカーの活用が有効性探索の効率に役立つかの検討も継続する。かかる分析はグローバル製薬企業の開発行動とその健康上の帰結を構成する要素の探索となる。 以上の新たな研究を本年度に実施した上で、本研究全体の総括を行いたい。
|