研究課題
基盤研究(C)
ピロリ菌はcagA遺伝子を持つ株と持たない株に分類されるが、胃がん発症に関与するのはcagA陽性株である。日本では毎年約5万人が胃がんで死亡しているが、日本人の胃がん患者の大半はcagA陽性ピロリ菌感染者である。ピロリ菌は菌体内で産生したCagAタンパク質を胃上皮細胞内に直接注入する。申請者は、CagAが注入された細胞でDNA二本鎖切断が引き起こされることを見出している。DNA二本鎖切断は重篤なDNA損傷であり、修復されない場合には遺伝子変異や染色体転座の原因となることが知られている。本研究では、CagAがDNA二本鎖切断を誘発する分子機構を解明し、細胞がん化への関与を検討する。
CagA蛋白質を産生するピロリ菌感染は胃癌発症の最大の危険因子である。CagAはヒト胃上皮細胞細胞内でPAR1bキナーゼに結合しキナーゼ活性を抑制する。本研究では、CagAが宿主ゲノムに重篤なDNA損傷であるDNA二本鎖切断(DSB)を誘発 することを見出した。その分子機序として、CagAはPAR1bを抑制することによってBRCA1のリン酸化を阻害した。BRCA1リン酸化は核移行に必須であり、CagAがBRCA1の核移行を阻害 する結果、DNA複製フォークが不安定化されDSBが誘導された。従って、CagAはPAR1b抑制を介して一過性BRCAnessを誘導することが示された。
日本人の胃癌患者の99%はcagA陽性ピロリ菌感染者である。ピロリ菌は産生したCagA蛋白質を胃上皮細胞内に直接注入する。本研究では、CagAがPAR1bを抑制することによりBRCA1の核移行を阻害し、宿主ゲノムにDNA二本鎖切断を誘導することを見出した。BRCA1遺伝子は不活化変異により遺伝性乳癌・卵巣癌の原因となる癌抑制遺伝子である。胃癌ではBRCA1変異は殆ど見られないが、ゲノム解析からBRCA1不活化変異を有する癌と同じ変異パターンが生じていることが報告されている。本研究成果から、ピロリ菌CagAが一過性BRCAnessを引き起こし細胞癌化を促すことが示唆される。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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