研究課題/領域番号 |
19K08101
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52040:放射線科学関連
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
戸田 尚宏 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (00227597)
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研究分担者 |
小山 修司 名古屋大学, 脳とこころの研究センター(医), 准教授 (20242878)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | X線CT / 散乱線 / 機械学習 / モンテカルロシミュレーション / 被曝低減 / 多項分布 / 散乱線利用 / モンテカルロ計算 |
研究開始時の研究の概要 |
現行のX 線CT において対象物(被験者)で発生する散乱線は,断層像再構成上有害であるため,グリッドにより除去されている.しかし,散乱線は本来,対象物との相互作用の結果生じるものであるため,対象物の内部構造に関する情報を持つ. 本研究では体系を簡略化したモデル上で原理的な考察と数値実験から,散乱線検出専用の検出器を利用する事でこの情報を引き出し,X 線CT の再構成精度を向上させられる事の理論的根拠を明確化しつつ、モンテカルロ計算と機械学習を用いた数値実験を並列型計算機を用いて実施し,X線CT 検査の被曝低減の可能性を探る.
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研究実績の概要 |
現在医療診断において不可欠なものとなっているX線CT装置においては,断層像再構成処理において,撮影時に必ず発生する散乱線を障害の原因となるものとして除去する努力がなされてきた.これに対し,本研究は,その散乱線に有益な情報がある事を指摘しこれを用いる事でX線CTの再構成精度が向上し,この事により現行のX線CTの被曝削減の可能性を示す事を目的としている.具体的なアプローチとして,機械学習的写像近似法及びシミュレーション投影近似法と銘打った方法の実装及び比較検討を計画している. 機械学習的写像近似法に関して,本年度は小立方体および小球を複数個内容物として持つ対象物において(再構成画像サイズ16×16),大学内共同利用の大型計算機を用いることで,昨年度に比して2倍のデータ量による学習を試み,散乱線の効果を確認した.その成果は2023年度生体医工学会全国大会で発表している. さらに本年度新たな工夫として断層像を分割し,それぞれ個別にネットワークを構成する方法を考案し,ネットワークサイズを小さくする事で現有GPUにおいても画像サイズを28×28(昨年の約3倍のピクセル数)にまで拡大する事に成功した.この成果は2024年3月に開催された電子情報通信学会MBE研究会で報告している. また,これまで無視してきた光電吸収の存在を仮定しモデルとしてπ字路モデルを用いた解析により,光電吸収により光子が失われても散乱線測定の効果がある事を理論的に示し,論文として電子情報通信学会英語論文誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度(初年度)にはそれまで対象物のサイズが2×2×2の再構成に留まっていた所,6×6×6のサイズの対象物に対し,機械学習的再構成法によって散乱線を用いる事による有効性を示す事ができた. 2020年度には,シミュレーション投影近似法によって単純な対象物においてはエネルギー情報を得るために散乱線が有効である事を示す事ができた. さらに2021年度には機械学習的写像近似法によって,ある程度の大きさ(16×16)の断層像を生成できる事が分かったが,学習データと評価データでの誤差に開きがあり,過学習の状態である事が分かり汎化性の向上のための検討に入った. そこで2021年度まではPCに搭載した汎用GPU上での実施であった所,2022年度には大学共用の大型計算機も用いた環境においてデータ数を増加させ,2倍程度の学習データ量での再構成を実現し,散乱線利用の有効性を示せているが,未だ十分とは言えなかった.また画像サイズの拡大の方向性とは別に散乱線利用によるエネルギー情報の取得という観点が明確化された.すなわちDual Energy再構成における基底要素として,コンプトン散乱と光電効果を用いる従来の枠組みから,骨とヨードなどの二つの基底物資を使う近年の主流の方法に関しても散乱線の有効性を示す事が出来た. 2023年度においては現有の設備(共用大型計算機)の容量を限界まで用いるという制約の下,断層像の分割法を構築する事で,断層像全体のサイズを大きく(28×28)する事に成功している.この断層像分割法を用いればネットワーク学習に時間を要するが断層像サイズを大きくできる.しかし,共用計算機である事から実用規模での検証を行うためにはさらに何等かの工夫と大型の計算機を用いる必要がある.現在投稿中の理論の論文の採択後には掲載料が必要となる事から期間を延長した.
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今後の研究の推進方策 |
上述したように散乱線利用の有効性を検証するためには,現有の設備の制約の下,より現実に近いサイズでのシミュレーションを行う必要がある.そのため,機械学習的写像近似に関しては,各ピクセルの独立性を利用した断層像分割法に加えて,CTスキャナのセンサーの配置の対称性に着目しネットワークサイズの縮減方法を検討する.具体的には,まず直接線のみを用いる通常のCTスキャナ体系で,投影データ(対数)から断層像への線形写像の内,冗長な部分の特定を行う.さらにこれを非線形中間ユニットを持つネットワークの場合に拡張する.これらの知見を元に,散乱線検出器から断層像各ピクセルへの写像における対称性を明らかとし,それを用いてネットワークの縮減を図り実用規模の再構成へと繋げていく. また昨年度末に投稿に至った光電効果を含めた理論に関する論文を採録とするための努力を行う.
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