研究課題
基盤研究(C)
原発性免疫不全症の中でも機能獲得型変異による免疫調節異常症に対して、ゲノム編集技術による遺伝子治療法を開発する。活性化PI3KΔ症候群(APDS)は、PI3KのサブユニットであるPIK3CD遺伝子の片アリルの機能獲得型変異によって発症し、PI3K経路の恒常的活性化からリンパ増殖症状とリンパ球の機能不全を呈する疾患である。本開発では新型CRISPR/Cas9システムを用いて、変異アリル特異的にゲノム編集を実施し、機能獲得型変異による免疫不全症への遺伝子治療の可能性を検討する。
活性化PI3Kd症候群(APDS)などの機能獲得型変異による疾患に対するゲノム編集では、変異アレルのみを編集する必要がある。APDSでは、PI3K/Aktシグナルの恒常活性化が起こることから、患者T細胞に対して、変異アレル特異的な認識とindel挿入による破壊を試みた。その結果、80%の細胞でindel挿入が認められ、さらにフレームシフトの誘導は70%であった。ゲノム編集を行った患者T細胞では、ゲノム編集前に比べてAktのリン酸下の低下が認めら、恒常活性化の改善が認められた。In vivoにおける解析のため、ヒトPIK3CD遺伝子変異に対応する変異を持つマウスの作製を行なっている。
レンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療は多くの疾患でその有効性が認められ、造血細胞移植ドナーが不在の患者における有力な治療選択肢となりつつある。しかし、その原理は、変異遺伝子はそのままに、染色体上に新たに治療遺伝子を組み込む「付加型遺伝子治療」であり、恒常活性化変異による疾患に対しては、変異遺伝子がそのままとなることから、効果が期待できない。一方で、ゲノム編集技術は、変異遺伝子(変異アレル)のみを直接編集することが可能であり、さらに、活性化変異に対しては、変異アレルの修復ではなく、変異アレルの破壊のみでシグナルの異常活性化が期待でき、よりシンプルな遺伝子治療法の確立が可能である。
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