研究課題/領域番号 |
19K08803
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53050:皮膚科学関連
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中沢 寛光 関西学院大学, 理学部, 教育技術主事 (70411775)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 皮膚角層 / 細胞間脂質 / 経皮吸収 / 塗り薬 / 化粧品 / X線散乱 / 医薬品 / 放射光 / X線回析 / 電子線回析 / X線回折 / 電子線回折 |
研究開始時の研究の概要 |
皮膚角層の構造と機能の関係性の解明を目的とし、本研究では、様々な水分含有量にある角層の溶液吸収特性を解析し、さらに、様々な水分量にある角層に電気的刺激を加えた際の構造変化、およびその結果として生じる溶液吸収促進効果を明らかにする。 申請者が開発した試料保持装置と、SPring-8の高強度Ⅹ線ビームを用いることで、角層由来のX線回折光の時間変化を高感度に解析し、角層の溶液吸収特性とその環境要因との関係性を広範囲に調べる。本研究より得られた実用的な角層構造の測定法や、外部刺激と溶液吸収の関係性に関する知見は、塗り薬等の外皮用薬の開発及びその適用方法の開発に活用することが可能である。
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研究実績の概要 |
ヒトの皮膚の最外層には角層が存在し、角層はそこで生体と外界とを物理的に遮断する皮膚バリア機能の中心的役割を担う。この角層の構造はそれを構成する分子配列の秩序性が高く、したがって高輝度な放射光を用いることで、角層の詳細な構造情報を取得することができる。本研究では、SPring-8やKEK-PFの高輝度放射光を用いることにより、経皮吸収過程にあるヒト皮膚角層の微細な構造解析を実施し、さらにその際に電場などの外部刺激を加えることで生じる経皮吸収促進効果を捉えることで、これらの作用メカニズムを明らかにすることを目指した。 これまでの検討により、本手法を利用することにより、塗布する物質の種類や角層周りの外部環境によって、皮膚内を浸透する物質の角層の構造の時間変化特性が変わることが明らかとなっている。これらの知見の下に、今年度は、関連する企業研究者と共同で、①角層周りの水のクラスターサイズが角層の構造や経皮浸透性に与える影響を詳細に解析する実験、②角層内外に電流場を印加することで生じる経皮吸収促進作用の解析実験、③皮膚角層上に塗布した化粧品の角層上での構造変化過程及び角層内浸透挙動の解析実験の3つの研究を柱とし、また関連する同種の研究も広く展開した。またそれらの成果を多くの学会で情報発信した。具体的には、日本皮膚科学会、コロイド及び界面化学討論会、日本生物物理学会、高分子討論会、電気通信情報学会などで研究成果を発表した。また香粧品学関連科学雑誌のFragrance Journalに論文を2報投稿し、2報とも掲載された。Biochimica et Biophysica Actaに投稿した論文もアクセプトされた。(1864(9) 183933-. DOI:10.1016/j.bbamem.2022.183933)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前々年度はコロナ禍で放射光実験の実施などに大きな影響が生じ、実験全体の進捗に様々な遅れが生じる原因となった。現在ではコロナ禍における実験的制約はほぼ解消されたが、その後のウクライナの問題などに起因する世界的な物流の乱れや半導体不足などがあって、実験装置の納品が大幅に遅れ、目的の実験の実施に遅れが生じる原因となった。 本研究課題の遂行のためには、大型放射光施設SPring-8や高エネルギー加速器研究機構の実施課題に採択され、ビームタイムを確保する必要がある。幸いにも昨年度は多くのマシンタイムを取得することができ、十分な数の実験を実施することができた。これらの成果により、試料周りの微妙な湿度環境の違いが、角層の構造に大きな影響を与えている可能性が明らかとなった。これらの結果は学術的にもとても貴重なものと考えられるが、同時にこの微妙な湿度環境の違いが物質の皮内浸透性にも影響している可能性が示唆され、結果的に、経皮吸収促進作用を解析する実験においては、これらの条件を精度よく調整する必要があることが分かった。現在、高性能な湿度コントローラーを開発し、ここで開発した試料セルに組み込むことを検討している。すでに、湿度環境の違いによる角層の構造特性の変化についてはある程度解析が進んでおり、その途中経過については皮膚科学会などで研究発表している。 次年度は、これらの研究成果をさらに進展させるとともに、湿度環境を十分にコントロールした上で、電場や力学的刺激などの経皮吸収促進効果の解析実験を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度については、上述した湿度コントロール装置と現状の構造解析システムをバインドした実験を実施し、角層構造や経皮吸収に対する環境湿度の影響を詳細に解析する予定である。そのため、まずは今年度末に購入した湿度コントロール機を立ち上げ、既存の試料セルに組み込み、試料内部の湿度を厳密にコントロールできるシステムを構築する必要がある。この装置を用いて、皮膚角層だけでなく、皮膚角層と類似の構造を有し、水の影響を敏感に捉えることができるヒト毛髪でも湿度を変化させた実験を実施し、外部湿度と角層や毛髪の構造との相関解析を実施する。それらの結果が得られたのちに、外部湿度を厳密にコントロールした条件下において、電場の印加や力学的刺激などによる経皮吸収促進作用の解析実験に進む予定である。 さらに水のクラスターサイズによる角層や毛髪の構造変化特性の解析研究も引き続き展開していく予定である。現在、水のクラスターサイズが異なることで、角層や毛髪の構造特性が変化することを示唆する多くのデータが得られており、次年度は学術論文の形で外部に発信していきたいと考えている。 また今年度新たに、人工知能を用いた角層構造と皮膚物性の相関解析研究にも着手している。この研究に関しても、AIが様々な人の角層の構造から皮膚物性値を予測可能であるという興味深い結果がすでに得られている。これらの研究についてもさらに発展させ、皮膚角層の構造とバリア機能の統括的な解析研究を進めていきたいと考えている。
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