研究課題
基盤研究(C)
チクングニアウイルスはアフリカ、西南および東南アジア地域で頻発する発熱や筋肉痛、関節痛を主な症状とする蚊媒介性発熱性疾患であるチクングニア熱の原因ウイルスである。日本では媒介蚊の活動が活発な夏期に輸入症例を契機とした国内感染の発生に注意が必要である。現在のところチクングニアウイルスに対する予防薬や、ワクチンは開発されていない。 本研究ではこれまでに同定できた新規チクングニアウイルス感染関連細胞性因子のウイルス感染増殖への関与のメカニズムの解明と、この細胞性因子を標的とした抗ウイルス低分子化合物等の開発のための足掛かりを得ることを目的とし研究を進める。
これまでノックアウト細胞ライブラリーを用いて行ったゲノムワイドスクリーニングで得られたチクングニアウイルス(CHIKV)感染への関与が疑われる膜蛋白質遺伝子の候補についてCHIKV感染におけるその効果を検討した。当該膜蛋白質のノックアウト細胞への野生型CHIKV Thai#16856臨床分離株の有意な感染の低下と、ノックアウト細胞への当該遺伝子発現ベクターを導入したノックイン細胞でCHIKV感染感受性の回復が観察されたこと、及びこの膜蛋白質とCHIKV外皮膜膜蛋白質とが免疫沈降実験で共沈してきたことから、当該膜蛋白質がCHIKVの宿主細胞への侵入に関与している可能性が考えられた。一方、牛水疱性口内炎ウイルス(VSV)やマウス白血病ウイルス(MuLV)といった別種のウイルスの外皮膜にCHIKV外皮膜膜蛋白質を発現した組み換えシュードタイプウイルスベクターを用いた感染試験では、CHIKV感受性細胞株と当該細胞性因子のノックアウト細胞との間でこれらシュードタイプウイルスの感染性に差がみられず、当該膜蛋白質がCHIKVの細胞内ウイルス増殖に関与している可能性も出てきた。このため当該膜蛋白質遺伝子のノックアウト細胞並びにノックイン細胞でのCHIKV増殖について検討したところ、それぞれの細胞でのCHIKV増殖率に違いは認められなかった。本研究で作製した増殖欠損型CHIKV発現プラスミドを用いた研究及び、EGFP標識CHIKVウイルス様粒子を用いた研究により、当該膜蛋白質が野生型CHIKV Thai#16856臨床分離株のcell-to-cell感染、または複数のウイルス粒子が同時に宿主細胞へ侵入できる状態での感染経路に関与している可能性を示すデータを得ることが出来た。今後はさらなる実験系を用いてこの膜蛋白質のCHIKV感染における役割について検討していく必要がある。
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Virus Research
巻: 272 ページ: 197732-197732
10.1016/j.virusres.2019.197732