研究課題/領域番号 |
19K09882
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56050:耳鼻咽喉科学関連
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研究機関 | 滋賀県立総合病院(研究所) |
研究代表者 |
扇田 秀章 滋賀県立総合病院(研究所), その他部局等, 専門研究員 (20761274)
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研究分担者 |
松本 昌宏 滋賀県立総合病院(研究所), その他部局等, 専門研究員 (80773811)
伊藤 壽一 京都大学, 医学研究科, 名誉教授 (90176339)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 人工内耳 / 周波数分解能 / 導電性高分子 / 神経突起 / ラセン神経節 / 神経成長因子 / 生体親和性 / PEDOT/PSS / ラセン神経節細胞 / 高周波数分解能 |
研究開始時の研究の概要 |
人工内耳電極は蝸牛の鼓室階に挿入されるため、電極とラセン神経節細胞とは骨ラセン板と呼ばれる骨壁を隔てて離れている。人工内耳の周波数分解能を向上させるためには人工内耳電極とラセン神経節細胞を近接させる必要があると考えられる。 本研究では、電極とラセン神経節を近接させる方法として、ラセン神経節細胞の神経突起を鼓室階に伸展させる方法を採用した。さらに神経突起と電極を接触させるため、電極表面に導電性のある生体親和性物質である導電性高分子の PEDOT-PSS を使用する予定である。 in vitroで神経突起を進展させるための最適な条件の検討を行ったうえで、in vivoで検証を行う。
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研究実績の概要 |
白金と導電性高分子の生体親和性を比較するため、白金板を導電性高分子である、PEDOT-PSSで被覆し、細胞培養を行った。細胞は増殖能がよく、容易に入手可能な骨髄間葉系細胞を使用した。最初に、導電性高分子の導電性能を見るため、ガラス板にPEDOT-PSSを塗布し、5mm程度はなれた距離で、電気抵抗を計測した。 電気抵抗は約10Ωで、人工内耳の被覆に使用するには十分な導電性を有すると考えられた。 白金板、PEDOT-PSS被覆白金版は共に大きさが1cm×1cm程度である。それらの材料を、プラスチック製の培養皿の底面に固定した。モルモット大腿骨から採取した骨髄間葉系細胞を、白金板等を貼り付けた培養皿内で培養を行い、白金板もしくはPEDOT-PSSで被覆した白金板上に生着した細胞数を比較した。 結果は白金板には400倍の顕微鏡視野で10個以上の骨髄間葉系細胞の生着が見られるのに対して、PEDOT-PSSで被覆した白金板上では生着した細胞が認められないか、400倍の視野で1-2個程度であった。白金板よりもPEDOT-PSSで被覆を行ったほうが、生着細胞数が少なく、今回の研究では導電性高分子を使用したほうが、生体親和性が悪化するとの結果となった。 また、PEDOT-PSSは耐水性が不良であった。白金板及びPEDOT-PSS被覆白金版は使用前にオートクレーブによる滅菌を行ったが、オートクレーブにより、PEDOT-PSSの一部剥離が見られた。また、培養液中で数日間培養液に浸潤させることでもPEDOT-PSSの剥離が見られ、人工内耳の電極として使用するには耐久性に問題があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
導電性高分子を使用することで、白金と比較して生体親和性が増加することを期待したが、白金のほうが生着細胞数が多く、期待されていた結果と逆の結果となった。また、PEDO-PSSは耐水性が悪く、オートクレーブあるいは培養液中でPEDOT-PSSが白金板から剥離する現象が見られ、人工内耳の被覆材として使用するには耐久性が不十分と考えられた。 耐久性の問題もあり、PEDOT-PSSの使用により、人工内耳電極の生体親和性を改善するのは困難と考えられた。人工内耳に対して、導電性高分子による被覆を考える場合には耐久性のよい、他の導電性高分子の使用を検討する必要があると考えられた。 導電性高分子を使用することにより、必要とする電圧や電荷を減少させる等電気的性質の改善が見られることを示した文献はあるが、生体親和性については、今回の実験では白金電極と比較して、優位性を示すことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
vivoでの電気刺激による、神経突起伸展促進の効果を見るため、体内に埋め込み可能なに電気刺激装置を作成し、蝸牛に持続的に電気刺激を与え、神経突起の伸展が見られるかを検討予定である。具体的には、シリコンゴムで被覆された電気刺激装置をモルモットの体内に埋め込み、電極を蝸牛内に挿入することで、持続的に蝸牛に電気刺激をおこなう。らせん神経節細胞の神経突起の伸展は有毛細胞の消失後に生じるため、あらかじめ、カナマイシン、フロセミドを用いて、有毛細胞に障害を与える。 刺激方法は直流を使用し、十分な効果が得られないようであれば正弦波を用いた刺激方法を採用予定である。電気刺激を開始してから、3か月後に蝸牛を摘出し、らせん神経節細胞の神経突起の伸展が見られないか組織学的に評価を行う。 神経突起の伸展が不十分である場合には、BDNFあるいはNT3といった神経成長因子を、浸透圧ポンプを用いて、蝸牛内に投与する方法も検討予定である。 導電性高分子を用いた電極の被覆に関しては、PEDOT-PSSでは耐水性が不良であったため、有機溶媒分散PEDOT等、他の導電性高分子を使用して、PEDOT-PSSと比較して、耐水性が向上するか検討を行う予定である。
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