研究課題
基盤研究(C)
本研究は網膜色素変性の新規治療法の開発を最終目的とした研究で、カルパイン阻害ペプチドによって網膜視細胞の変性を少しでも遅らせることができるかどうかを検証するために、ペプチドを徐々に放出できる物質を遺伝性網膜変性ラットの眼球表面の結膜の下に埋植して実際にラットの網膜変性進行が遅れるかどうかを光干渉断層計や光学顕微鏡および電子顕微鏡による形態的および網膜電図による機能的側面から経時的に計測する。
カルパインの一種であるミトコンドリアカルパインはアポトーシス誘導因子を活性化することから、このカルパインを抑制することで視細胞死をある程度抑制できるのではないかとの発想で、カルパイン抑制ペプチドの徐放剤を作成して、網膜色素変性モデルラットの右眼球結膜下に埋植し、対照眼である左眼と比較検討した。本研究期間ではロドプシンP23Hトランスジェニックラットの片眼を治療眼、僚眼を対照眼とし3か月間経過観察を行った。結果は3か月間の光干渉断層像、網膜電図および眼底写真にては両群間に有意の差はみられず、3か月後の組織試験と透過電子顕微鏡所見にても両群間に所見の差異はみられなかった。
本研究は網膜色素変性という本邦における成人中途視覚障害原因第2位(14%)の疾患に対する治療法開発という意義をもつ。本疾患には現在のところ有効な治療法がなく、遺伝子治療、再生医療および人工視覚などの最先端技術を駆使した治療法が開発されつつあるが、いずれも高額な予算を必要とするため、医療費負担が大きくなると予想される。その点、薬物療法は視細胞保護治療として多くの患者に比較的安価にしかも繰り返し施行できる利点がある。もし、この方法の有効性が確認され、カルパイン阻害を主体とした新規視細胞保護治療法が実用化されれば、本疾患患者への恩恵は計り知れないと確信している。
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