研究課題/領域番号 |
19K11552
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59020:スポーツ科学関連
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
井上 洋一 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (10193616)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | スポーツの法的課題 / スポーツ紛争 / 競技者の権利 / スポーツ法 / 日米 / ガバナンス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究 では、スポーツにかかわるこれらの法的課題のうち暴力問題、事故問題、差別問題、選考や 参加資格問題、ドーピング問題等の紛争に焦点を当て、スポーツの先進国であるアメリカ合 衆国と我が国を対象に、本質的な課題の解明と今後のよりよい紛争解決方策を競技者及び参 加者の権利の視点から、検討することを目的としている。これらの課題に迫ることは、国際 的に今日注目されてきているスポーツインテグリティの一側面を追求することにもつながり、 我が国の透明なスポーツ界の今後の発展に寄与するものである。研究の方法は、主として 種々の文献資料を用いた分析、検討が中心となる。
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研究実績の概要 |
2022年度日本スポーツ仲裁機構で仲裁判断がなされた事例は、10件が報告されている。本課題とかかわり、直接的な選手選考結果の取り消しを争った事例としてフェンシング女子のアジア大会派遣選考者の取り消しと申立人を選考することを求めたものがある。この事例では、コロナ渦の影響で海外大会が順調に開催されない中、ランキングのみでの選考決定に疑義があり、取り消し変更の申し立てがなされたが、仲裁パネルは定着してきた4要件をもとに、訴えを棄却している。また、自転車競技の大会開催見送りで、競技会に参加できなくなることで不利益を被る可能性(男女の平等の争点も含む)があり、その大会開催を求めた事例がある。しかし統括する国内スポーツ連盟の運営について一定の自律性を認め、同様に4要件を引きながら棄却している。これらはコロナ渦での特別なケースでもあった。そのほか、パラ・バドミントン2022 年度強化指定内定選手・次世代アスリート育成強化内定選手の決定において申立人を除外したことを争った事例においても、申立人の請求を棄却している。その一方で、パワハラによる競技者の活動停止処分の取り消しを認めた事例では、最低限の手続保障を欠いていたことを理由として、その取消しを命じた。また、テニス日本リーグの選手登録をめぐる事例では、選手の登録を認め参加する権利が保障されている。これら以外にコロナ感染とかかわりゴルフ国体選手の県代表の選出基準を明確にすることを示した例、ローラースケートの国際大会への日本代表選考会とする決定を取り消した事例など、いずれも広く競技者の参加する権利とかかわる裁定がなされた。一方、アメリカでは、競技者の包括的メディカルケアとともにメンタルヘルスへの対応が取り上げられていること、トランスジェンダー競技者の参加資格問題や男女同一の賞金等の課題が競技者の権利や競技団体のガバナンスの点でも注目されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
引き続き我が国のスポーツ紛争、とくにスポーツ仲裁における競技者の権利と関わる事例について、2022年度直近の日本スポーツ仲裁機構の裁定事例を検討することができた。昨年度はコロナ渦の影響が残るなかで選手の競技会の出場機会をめぐって争う事例が特徴的であったが、さらに、大会そのものの正当性や活動停止処分あるいはリーグ戦への登録制限を争う事例など広く競技者の権利とかかわる事例が検出されてきた。 選手の選考決定に対する取り消し変更等の申し立てについては、取り消すことのできる4要件(①国内スポーツ連盟の決定がその制定した規則 に違反している場合、②規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合、③決定に 至る手続に瑕疵がある場合、または④規則自体が法秩序に違反しもしくは著しく合理性を欠く場合において、それを取り消すことができる)が、定着してきていることもみてとれた。 一方、アメリカ合衆国では、オリンピック等で注目されてきた競技者のメンタルへの対応がUSPOCを中心に具体的に進んでいることは特筆される。なお、性による平等機会とかかわっては、従来からの賞金等の平等ばかりでなく、進みつつあるトランスジェンダーの競技参加資格に対する課題が注目されてきた。これらの課題も競技団体のガバナンスの問題として検討すべき事柄である。
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今後の研究の推進方策 |
日本スポーツ仲裁機構の仲裁判断を中心に、我が国の競技者の権利に関わる課題やスポーツ紛争等の動向の把握及びそれらの争点の検討を引き続き進めること、また、本年度検討がなされるであろうスポーツ基本法の改正や現在取り上げられつつある我が国のセーフスポーツセンター(仮)の創設の可能性などの動きを見据え、今後の方策を検討する。 一方、アメリカについては女子体操競技の重大事件を契機にして、組織の創設や法整備にわたる制度的改革が進められているなかで、本年度は十分にその動向や内容の検討が進められなかったので、これらの法改正を含めた動向、具体的の内容の考察をすすめることとしたい。加えて、新しく生じているメンタルヘルスへの対応等、選手の権利をめぐる課題についても注目したい。 我が国とアメリカ合衆国の競技者の権利をめぐる動向をみると、同様にスポーツ活動の発展とともに様々な公正・公平、安全に関わる課題がスポーツ界には噴出し、いま社会的にもそのことが厳しく問われてきている。これらの課題に迫ることは、国際的にも今日注目されてきているスポーツインテグリティの一側面を追求することでもあり、さらに我が国の透明なスポーツ界の発展に向けて、バランスの良い、よきガバナンスの向上に寄与するものである。
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