研究課題/領域番号 |
19K11832
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60010:情報学基礎論関連
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
安藤 映 専修大学, ネットワーク情報学部, 准教授 (20583511)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 高次元多面体 / #P-困難性 / 全域森 / 特性ベクトルの凸包 / 体積の計算 / ラプラス変換 / #P-困難問題 / 完全多項式時間近似スキーム / FPTAS / 近似アルゴリズム / アルゴリズム設計 / 体積 / 幾何双対性 / 計算複雑さの理論 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,n次元多面体の体積を求める問題に対して高速な解法の有無を計算量の理論の立場から調べることを最終的な目的とする.特に,多面体の間の「幾何双対」という関係に着目し,高速な解法を得るための手掛かりを探す.特に「幾何双対の関係にある二つの多面体について,一方の体積を高速に計算できるならば,もう一方の体積もある程度高速に計算できるのではないか」と予想している.当面の目標として,本研究では出来るだけ多くの事例を調べ,その結果を蓄積する.
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研究実績の概要 |
本年度では前年度まで検討していた方針をいったん見直し、(全域)森の特性ベクトル凸包の体積を求める問題に注目して研究を行い、国内の研究会である電子情報通信学会コンピュテーション研究会にて2024年3月に研究発表を行った。本研究成果をブラッシュアップして現在は国際会議に投稿して論文査読中である。 2022年度までは高次元多面体のうち、正軸体および複数の点の凸包を考えてその体積を求める問題を取り扱い、その中でもラプラス変換を用いて、アルゴリズムの設計および計算困難性に関する方針であった。しかし途中計算が煩雑になりすぎるために、意味の読み取りやすい結果に結びつけることが困難であった。 2023年度は思い切って取り組む問題を変更し、無向グラフGが与えられたときに、そのグラフの辺部分集合の中で閉路を作らないもの(森)によって定義される多面体を考えることにした。この多面体の定義は、グラフG内の森について特性ベクトルを考え、森の特性ベクトル全体についての凸包である。本研究では、この多面体を計算する積分式をグラフの規模に比例する回数の定積分の繰り返しの形で記述できることを示した。その上で、この定積分の繰り返しの形はグラフGの木幅(tree width)と呼ばれるパラメータが定数で抑えられるような形、つまりある程度木グラフに近いようなグラフGであれば体積の計算が多項式時間で完了すると示した。証明に当たっては多面体の体積をランダムベクトルが多面体の中に入る確率の形で書き直し、その確率の条件をうまく書き直して一種の標準形に直すことができる点が重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年当初に計画をしていた内容から計算対象の多面体を変更をすることにはなったが、変更した方針に基づいて研究を進めることによって、本研究の大きな目標に対しては近づく成果が出せていると考えている。現状の研究結果は、国際会議での発表や、また論文誌への投稿に耐える内容である。 幾何双対に近い性質によって体積を求める問題が互いに等価になることも明らかになってきた。無向グラフG=(V,E)内の森の特性ベクトル凸包の体積は、閉路の中で一様ランダムな重みの和が1以上となる確率と等しい。この閉路はちょうど森(閉路を含まない辺集合)とは対になる考え方であり、グラフの中の森の特性ベクトルを多面体の頂点としたときに、閉路によって与えられる超平面が多面体の一つの面を構成するという点で幾何双対に近い性質がある。森の特性ベクトルの対応する成分の和を任意の閉路について取ると、閉路の辺の数よりも1以上少ない値になるという性質があり、これが本質的であると考えられる。 森の特性ベクトルの凸包の体積を表現する式を変形する際の工夫においては、多面体の体積を一様ランダムベクトルXが体積内に入っている確率と等しいことを利用できることもわかってきた。このテクニックにおいては、確率を記述する条件に、敢えてXのほかに人工的な離散確率変数Yを導入する。これによって、任意の辺部分集合に対して、閉路の時のみ辺の部分集合の重み和を考慮し、閉路以外の時は重み和を考慮しないという式に直すという点が重要である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は研究成果を国際会議で発表し、更に論文誌へ投稿することを主体として研究を推進する方針である。ただし、2023年度の研究成果ではまだ木幅が大きなグラフGについて森特性ベクトル凸包の体積を計算する問題が本当に困難であるかどうかについては未解明であるため、可能であればこの点について#W[1}-困難性の証明可能性などを視野に入れて研究成果をさらに追加できないかどうか検討も引き続き行う。 なお、今回得られた研究結果はほかの多面体の体積を計算する問題へ拡張できる可能性があり、同様の計算方法で多様な多面体の体積を計算するという、標準的な考え方を構築する方向が考えられる。これまでの研究で得られたテクニックは離散的な確率変数を追加した条件を付与することで様々な多面体の体積を、グラフ規模に比例する程度の回数の定積分の繰り返しで表現できるという点である。 将来的な研究の方向性として、現状3つの方向性が考えられる。一つ目には森特性ベクトル凸包のほかにもマッチングなどの様々なグラフの部分集合から定義される多面体の体積を計算できる方法に繋がる可能性があると考えられるため、実現可能性が高いものと、研究すること重要性の両立を図れるような多面体にどのようなものがあるかについて考察を深めることも重要である。二つ目には、得られた積分式から、多面体の体積を効率的に計算するアルゴリズムの設計につなぐことができるかどうか、という方向に進める方針も考えられる。そして三つ目にはその積分式を計算する問題は互いに同程度の計算の難しさを持つ問題であるかどうか、という方針がありうる。
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