研究課題/領域番号 |
19K12355
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63040:環境影響評価関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
宗林 留美 (福田留美) 静岡大学, 理学部, 准教授 (00343195)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2019年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 栄養塩 / 溶存有機物 / タンパク質 / バナジウム / サクラエビ / 沿岸生態系 / 食物連鎖 / 生物生産 / 一次生産 / 微生物 / エビ類 / 駿河湾 / 富士山 / 海水 / 地下水 / 微量金属 / 有機物 |
研究開始時の研究の概要 |
富士山南麓の地下水と湧水中の主要栄養塩、微量金属、溶存有機物を分析して富士山で涵養した地下水(富士山系地下水)の生物地球化学的特徴づけを行うと共に、それらの成分の駿河湾の生物生産への有用性(生物利用能)を培養実験により評価し、その結果を駿河湾の観測結果と比較することにより、駿河湾の生物生産に対する富士山系地下水による化学的影響を明らかにする。また、富士山系地下水の化学的指標を提案し、河床湧出量の推定に適用することにより、駿河湾の生態系に対する河川の役割を再評価する。
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研究実績の概要 |
河川を介した富士山系地下水の流入による駿河湾の生物生産への影響を明らかにすることを目的として、駿河湾に流入する主要河川のうち、富士山系地下水が混入している狩野川および富士川と、混入していない安倍川および大井川の水質を河口に最も近い流量観測所で調査した。リン酸イオンとケイ酸の濃度は狩野川で最も高く、次いで富士川、安倍川、大井川の順に低かった。最も低濃度だった大井川に対して狩野川の栄養塩濃度はリン酸イオンで約20倍、ケイ酸で約3倍高く、狩野川と富士川には富士山などの火山岩からリンとケイ素が付加していると考えられた。狩野川は駿河湾への流入量が4河川で最も少ないものの、リン酸イオンとケイ酸の供給量が最も多く、駿河湾の一次生産への影響が大きいことがわかった。一方、硝酸イオン濃度は富士川で最も高く、次いで狩野川で高い傾向にあった。また、狩野川は亜硝酸イオンとアンモニウムイオンの濃度が4河川の中で突出して高く、施肥の影響に加え、硝化・脱窒の中間物質である亜硝酸イオン濃度が高いことから微生物活性が高いことが推測された。これに対して、溶存有機物はいずれの河川も駿河湾沖合部の海面付近より常に濃度が低く、今回調査した4河川は駿河湾の溶存有機物の供給源としての機能が弱いことが明らかとなった。2年目に、駿河湾では6月に微生物食物連鎖が活発でその駆動源として河川からの陸起源溶存有機物の供給を予想したが、今回の結果はその予想を否定する内容となった。駿河湾沖合部の海面付近ではタンパク質様溶存有機物の濃度が6月に顕著に低下し、駿河湾内の微生物生産へのタンパク質様溶存有機物の寄与が考えられた。河川水中のタンパク質様溶存有機物の濃度が駿河湾沖合部海面付近の濃度を常に上回ったことから、河川はバルクの溶存有機物ではなくタンパク質様溶存有機物の供給源として駿河湾の生物生産に寄与していると予想した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
駿河湾の低次生態系を中心とした生物生産について知見を得ることができた。1年目は、駿河湾の沖合部で春季に表層水中の栄養塩の窒素:リン比が上昇し、その後低下して夏季に低い状態を維持する季節変動を繰り返していることを明らかにし、この現象に珪藻の休眠胞子形成が関与していることを培養実験で示した。2年目は、一次生産が低い夏季に微生物が増えることで沖合域の生態系が維持されていることを示し、4年目はその要因として河川から供給されるタンパク質様溶存有機物が寄与している可能性が高いことを示した。また、駿河湾に特徴的なサクラエビなどのエビ類について調査を行い、エビ類の赤い色素であるアスタキサンチンの異性体組成の季節変化を明らかにした。 富士山系地下水については、これを起源とする柿田川や、富士山系以外の地下水も含む黄瀬川など、駿河湾東部の最大流入河川である狩野川水系で調査を行った。1年目は、平水時における柿田川による狩野川下流の一次生産の増強を培養実験で示したのに加え、柿田川と黄瀬川の栄養塩組成が大きくことなること、特に、柿田川がバナジウムとケイ酸に富む極めて特徴的な水質であることを明らかにした。2年目は、台風通過直後の狩野川の増水時に富士山系地下水が河口域の一次生産に対して栄養塩の供給媒体として寄与するものの、一次生産を抑制することを培養実験により明らかにした。3年目は富士山系地下水の湧出を検出する目的で現場型バナジウム計の開発に着手したが完成に至らず、申請時の計画よりも進捗状況が遅れている。しかし、4年目に狩野川水系に加えて、富士川、安倍川、大井川で調査を行ったことにより、富士山系地下水と河川による駿河湾の生物生産に対する化学的影響について予想を上回る成果を上げられたことから、遅れているものの研究延長により当初の目的を達成できると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
狩野川で富士山系地下水を判別するために、昨年度に合成方法と定量条件を検討したSal-BHを用いて「現場型バナジウム計」改め「富士山系地下水検出器」を制作する。簡易分光光度計にフローセルとポンプを組み合わせ、これを水中ドローンの様な遠隔操作可能なプラットフォームに搭載することで、高い時空間解像度で調査ができるようにする。 今年度に行った河川調査により、富士山系地下水の影響の強い狩野川で微生物活性が高いことが示されたことから、狩野川における微生物活性と富士山系地下水の関係を明らかにし、その関係による駿河湾の生物生産への寄与を調査する。また、今年度の調査から、安倍川で地下水起源と考えられる原核生物が検出されたことから、富士山系以外の地下水による河川と駿河湾の生物生産への影響を調査することで、富士山系地下水の機能を相対的に位置づける。
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