研究課題/領域番号 |
19K12564
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80020:観光学関連
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 輝 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (30386924)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2019年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | グリーン・ツーリズム / イタリア / アグリツーリズモ / 地産地消 / 地理的表示保護制度 / 品質認証制度 / 国際比較 / ドイツ / フランス / イギリス / 農村観光 / 地域活性化 / 地方創生 / 農家民宿 / 品質認証 / プロモーション / 人口増減 / 半構造化インタビュー / グリーンツーリズム |
研究開始時の研究の概要 |
農家による観光客向けの宿泊、食事、特産品の販売を通して地域活性化を目指す農村ツーリズムは、農林業・国土を守る重要な産業として世界各国で注目されている。同産業の発展の著しい2000年以降のイタリアを対象にして、農村ツーリズムの盛んな自治体はどこに存在し、そこでの人口がどのように変化しているかを分析する。また、先進的な自治体の農家民宿や業界団体への聞き取り調査をおこない、同産業の有効な支援策を明らかにする。
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研究実績の概要 |
欧州の農村ツーリズム拡大の一つの背景には、従来の農薬による生物多様性の喪失や化学肥料による地下水汚染を抑制しつつ、過剰生産による農産物の価格下落を防ぐための欧州連合(以下、EUと略す)の共通政策の推進がある。すなわち、減農薬や有機栽培によって生産量は減るものの、むしろ農産物の安全性や品質面での高付加価値化を図りながら、食材を観光業で提供することを通じて収益性をさらに高めて農家の収入増を実現する先進的な試みと言える。 象徴的なスローフード運動(1986年~)や景観法制定(ガラッソ法、1985年)も相まってイタリアの「アグリツーリズモ」(以下、ATと略す)の産業は、欧州最多の農家民宿数を誇るに至った。これまでに本研究では、独自の指標である「人口1万人あたりのAT農家密度」の高い地域において2000年以降に人口減少の起きづらい傾向があることを明らかにした。また、この発展を支える政府・州庁・AT協会等の体制を具体的に図示することができた。一方、これらの組織的な連携によって整備されてきたAT農家対象の品質認証制度では、他のEU諸国よりもAT農家で提供される自家製品や地元食材の充実度が重視されており、政府のAT法に基づきAT各州法でも食材の地産地消の高い割合(60~100%)が規定されていた。 この農産物の生産や流通のネットワークがどのような仕組みや組織によって支えられ、どのような成果をおさめているのかについて、本年度には分析・調査を進展させた。特に注目したのはAT改正法(2006年)でも明記される伝統的特産品の優先的な利用の効果、およびAT諸協会によるコンサルタント・プロモーション業務の状況であり、これらの結果を学会での1件の口頭発表として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」とした理由としては、新型コロナウイルス感染対策水際措置がイタリア入国時(2022年4月までは指定ワクチン3回接種の証明提示が必要)および日本への帰国時(2022年8月までは海外での出国前72時間以内の検査証明が必要)が残っており、渡航計画を立てられなかったためである。また、昨今の国際情勢の激変に起因する航空券・化石燃料費・物価(本研究の場合には通訳料)等の高騰、および円安によるユーロ換算レートの悪化によって現地調査費用がこれまでの計画では、まったくまかなえなくなってしまったことも一因である。つまり、渡航の時期・内容を大幅に見直さなければならず、残念ながら本年度中には十分に対応できなかった。したがって、現在、現地調査内容の調整を試みている(優先度の高い訪問先のしぼり込みや、必要なインタビュー項目の精査など)。 進捗状況として、2000年以降のイタリアにおけるAT農家の地産地消を支える組織的な活動の成果について、主にインターネット上の情報に基づいて、まずは二つのテーマを調べている。一つ目は、州毎の地理的表示保護食品の生産者、あるいはワイン生産拠点の効果を明らかにするために、それぞれの単位人口あたりの「密度」を試算し、上述のAT農家密度との関係性を分析中である。二つ目は、AT協会の一つであるテッラノストラによって推進されている「田舎の友達(カンパーニャ・アミーカ)財団」の地産地消ネットワークの現状について文献を調査している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2年目に渡航できなかった北部のボルツァーノ県の諸団体とヴェネト州のAT協会テッラノストラ、および3年目に渡航できなかった島嶼部のサルデーニャ州における諸団体を対象として2023年9月中旬にまとめて訪問できるかどうかを模索している。この可否については事前の準備を勘案すると、同年5月頃には最終的に判断する必要があろう。上述の諸要因によって旅費がかさんでしまうようだと、通訳者への謝礼を適正に捻出できず、体系的な調査計画を立てられない可能性が高い。この場合には、航空券の比較的安価な季節(2024年3月)に渡航できるよう調整する。(ちなみに、南部のラツィオ州とバジリカータ州については優先度の面で現地調査を断念する予定。) 直近では2023年6月に日本環境学会研究発表会において「イタリアのアグリツーリズモにおける食品・ワイン等の地産地消を推進する組織的活動の先進事例調査(その2)」と題して、州別の地理的表示保護ワインの生産量とAT農家密度の多寡との関係、および先進的なボルツアーノ県における地元農産物のオンラインショップの整備状況を報告する予定である。ここで確認した結果を今後のインタビュー項目にも反映させて、新たな学術論文として取りまとめる所存である。 長期的にめざしたいのは、イタリアのAT産業の重層的な振興策について成功の要点を整理し、日本や発展途上国の「環境保全と観光促進(経済発展)の両立」に資する制度・政策の充実化に寄与することである。なお、イギリス、ドイツでは農村ツーリズムに関する統計データのインターネット公開が限定的であるため、目標とするEU諸国の農村ツーリズム推進状況の横断的な分析・把握は現段階では困難かもしれないと認識している。
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