研究課題/領域番号 |
19K12770
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
早川 雅之 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (20803422)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 集団運動 / 自己組織化 / パターン形成 / 細胞性粘菌 / 細胞集団運動 / 非対称性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、アメーバ様細胞運動に現れるミクロな左右非対称性と、多細胞構造に現れる構造のマクロな左右非対称性の階層関係を理解することを目的とする。具体的には、KI細胞(細胞性粘菌の変位株)一つ一つの運動非対称性と、KI細胞が形成する右回り渦状構造などの左右非対称構造の階層関係を、実験・理論両方のアプローチで理解する。本研究の成果により、アメーバ様細胞運動を示す細胞の多細胞構造形成、例えば神経細胞による脳の形成など、の理解が進展すると期待できる。
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研究実績の概要 |
左右非対称な多細胞構造は、(1)寒天培地上で細胞をバクテリアと共培養した場合、(2)バクテリアが存在しない無栄養寒天上に細胞塊を置いた場合、の2通りで実現する。特に(2)の場合、多細胞構造は、円形の細胞塊を中心として放射状に伸び、右回り方向に進む複数の湾曲した粗密波によって構成されるスパイラル構造である。バクテリアが存在せずイメージングが容易なことから、最近では実験系(2)を扱っている。 2023年度では、2022年度の結果を踏まえ、細胞塊近傍の高密度領域の解析を行った。円形の細胞塊の周りには、細胞塊を取り囲むようにリング状の細胞高密度領域が形成されていた。この領域にPIVを適用した結果、細胞高密度領域は右方向に回転していることが明らかになった。この回転方向は、疎密波の示す非対称性と一致した。おそらくこの高密度領域の回転が粗密波を方向づけていると考えられる。さらに細胞高密度領域内の細胞をトラッキングし、その軌跡を解析したところ、各細胞の運動が非常に揃っており秩序相を形成していることが明らかになった。また個々の細胞に関する実験・解析についても行った。細胞性粘菌野生株の細胞運動は左右非対称性であることが既に示されていたが、本研究で用いた株は異なるため、まずは本研究でも同様非対称性があるかどうかを調べた。その結果、野生株と同様の左右非対称性が観察された。また、細胞間の相互作用を調べるため細胞同士の1対1衝突の解析を行った。その結果、衝突後、細胞はお互いの向きを揃えるように振る舞うことがわかった。これらの結果をふまえ、本研究の左右非対称なスパイラル構造を、個々の粒子に非対称性が導入されたVicsek modelにより再現することを試みた。実験同様、各粒子の初期位置を円形領域に限定してシミュレーションしたところ、スパイラル構造を再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると考えている。特にスパイラル構造の形成に関して大方理解することができた。現状で分かっているシナリオは以下の通りである。①運動非対称性を持つ個々の細胞が細胞塊から這い出し、細胞塊近傍で、個々の運動非対称性に起因する右回りの細胞高密度領域(リング状領域)を形成する。②時間が経過するにつれ、細胞高密度領域から抜けだした細胞が細胞高密度領域外側にも多く存在するようなり、疎密波を形成するのに十分な密度に達する。③疎密波の一端が細胞高密度領域に接することにより、疎密波の移動方向が細胞高密度領域に方向づけられ、右回転のスパイラル構造となる。このように、多くの実験や解析、シミュレーションにより、本研究の目的である、個々の細胞にみられる運動の左右非対称性と多細胞構造にみられる左右非対称性をつなぐ原理の解明、に近づきつつある。
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今後の研究の推進方策 |
上記で示した通り本研究は順調に進展しており、多くの知見が蓄積している。その一方で、細胞塊の周囲に高密度領域がなぜ現れるのか?という問いが生じている。今後は、実験やシミュレーション結果を照らし合わせ、この問いを説明する理論を考えていく。また、(1)寒天培地上で細胞をバクテリアと共培養した場合、に関する実験も進めていきたい。実験だけでなく、捕食-被捕食関係である細胞性粘菌-バクテリアの関係に着目し、細胞数の増殖と運動非対称性が導入されたVicsek modelを組み合わせたモデル構築などを考えていきたい。
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