研究課題/領域番号 |
19K13059
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 皇學館大学 (2023) 和洋女子大学 (2019-2022) |
研究代表者 |
木村 尚志 (木村尚志) 皇學館大学, 文学部, 准教授 (80736182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 東野 / 十六夜日記 / 足柄の道 / 武家法 / 柿本人麻呂 / 藤原為家 / 阿仏尼 / 宇治 / 足柄 / 武士 / 鎮魂 / 慈円 / 水無瀬 / 熊野 / 水辺 / 信仰と和歌 / 小野・大原 / 数奇 / 所領 / 水郷 / 浜名の橋 / 室の八島 / 戦乱 / 仏教 / 西行 / 藤原実方 / 大原 / 道 / 藤原俊成 / 歌枕 / 東国 / 伊勢 / 文化の復原 |
研究開始時の研究の概要 |
「東国」の存在がクローズアップし、和歌の享受層が「都」のみに限定されなかった時代である上代、及び中世の和歌と歌枕文化の共存と相互交渉の様態を明らかにする。「土地」は普遍的なテーマであるから、文学の立場から積極的に他の学問領域に参画することができるよう、また国の教育文化政策や地域の観光戦略にも生かされるよう、研究の質を一般社会へ還元し、その発展に資するものにする。中世の歌枕詠の現実主義的傾向の中には、土地に備わる霊性を核として上代から引き継がれた自然信仰的意識と、中世社会の政治構造的実態に応じた固有のあり方とが混在している。それらを腑分けして分類整理することが、本研究の基本的理念である。
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研究実績の概要 |
柿本人麻呂の和歌「東野に煙の立てるところ見てかへり見すれば月かたぶきぬ」には、鎮魂と忠誠という忠臣人麻呂像を形成する二つの政治的テーマが詠まれている。その政治性に引き寄せられる形で、「東野」という歌語は中世には人麻呂歌の元来の意味を離れて、西の京の政治や文化を東の鎌倉と結び付ける外交的役割を果たした。東国に最初に春が訪れ、霞も東から西へと移ろって都へとやってくるとの観念は、鎌倉期の公武協調への願いとして慈円が詠みはじめ、室町期にも都鄙合体の象徴として受け継がれた。「幕府の意向」を意味する「東風」や「東日」という言葉も九条家に近い人物の書いた貴族日記・書状・紀行文に用いられた。中世の勅撰集は承久の乱後、幕府の認可を必要とするようになった。勅撰集の企画が出て来ると、その撰者をめぐって歌道家の間、またはその内部で争いが起きる。そしてその争いが活発化する時期に「東野」の和歌の用例が増えている。それは、鎌倉期に歌語「東野」が勅撰集撰者の認可権を持ち、それと同時に歌道そのものを解する能力も有するようになった幕府の、記号的表現となったからである。この研究について和歌文学会例会における発表や『皇學館大学紀要』への投稿といった成果が上げられた。 『十六夜日記』の流布本に見られる長歌の中の「足柄の道」について、これを一部の伝本の「葦原の道」で歌道の意と解する見解に対して、『角川古語大辞典』の「あしはらのみち」の項に「『あしがらの道』が正しい本文で、鎌倉幕府法を指すと考えられる」としているのを支持し、『十六夜日記』の文脈や阿仏尼の文学、そして御子左家の歌道のあり方から再検証している。「足柄」に関しては和歌文学会大会で発表を行い、引き続き論文化に向けて学会で不足の指摘された『十六夜日記』の文脈からの考察を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスのパンデミックや育児休業等で中断の時期を挟んだが、職場が代わり、科研費を執行する作業ルーティーンが前職よりも自分に合っており、研究に割く時間を確保できる職場でもあったため、大きく進展させることができた。上記以外に、R6年度に入って公刊される長柄の橋を取り上げたもう一つの業績も存在する。したがって、今年度の研究業績の点数的には物足りないが、次年度に持ち越される課題が具体的で、画期的であるがゆえに、おおむね順調であると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
長柄の橋に関する問題について『日本文学』の2024年5月号に論文が掲載される。これに関して「いまは富士の煙もたたずなり長柄の橋もつくるなり」という『古今集』「仮名序」の一節の現行の解釈に対して疑義を呈する画期的な発見に繋がり得るものとして現在鋭意論を発展させていく。さらには駿河国大畑に住む世捨て人が書いた『閑谷集』についての荘園に着目した研究や所領争いの絡む『十六夜日記』の研究など、中世史のメインテーマである荘園問題を、文学の畑に取り入れてゆくにはどうすればよいか、それによって見えて来る歌枕観とは何かといったことを研究してゆく。
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