研究課題/領域番号 |
19K13081
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 豊田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
江口 啓子 豊田工業高等専門学校, 一般学科, 准教授 (00824476)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 一位局 / 女性筆者 / 秋夜長物語 / 児物語 / 義経奥州下り / 恋路の草子 / 屋島尼公物語 / 小敦盛 / 八島 / 西行物語絵巻 / 近衛家 / 古筆鑑定 / 近衛政家 / 古筆伝称 / 古筆伝承 / 絵巻・奈良絵本 / 筆者伝承 / 古筆 / 画史・画人伝 |
研究開始時の研究の概要 |
日本文学史における女性の活躍は、中世、とりわけ南北朝以降はほとんど知られていない。しかし江戸時代の鑑定文化の中では、女性の能筆家として室町戦国期の宮廷女房の名がしばしば登場する。本研究は、室町戦国期に活躍した一位局を取り上げ、室町戦国期における女性の文芸活動の一端を明らかにすることを目指す。一位局は歴史資料からはほとんどその存在を確認できないが、画史や画人伝では明治にいたるまで著名な女性筆者としてその名が語り継がれてきた。そこで、このような伝承も女性の文化活動の「記憶」として研究の対象とし、書かれた物としてのテキストと、それにまつわる言説(伝承)の両面から「一位局」像を総体的に捉えていく。
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研究実績の概要 |
2023年度は飛鳥井一位局筆とされる『恋路の草子』、『義経奥州下り』を起点とし、女性筆者、女性読者と児物語および軍記・語り物との関わりについての研究を進めた。 児物語とは主に僧と寺院に仕える少年である児との恋愛を描いたものを指すが、これは江戸時代に大田南畝が編纂した『児物語部類』以来、慣用的に用いられている呼称である。説話文学会12月例会のシンポジウムでは「児物語の文学史的位置づけの試み」という題目で、「児物語」とされる作品の本質についての再考を行った。そこで『恋路の草子』の例を紹介した。『恋路の草子』は三国の有名な恋の逸話を集めた物語であるが、その中に児物語の代表作『秋夜長物語』が取り上げられている。これまで児物語の制作、享受について女性との関わりから論じられることはなかったが、『恋路の草子』および『みなつる』を例に、児物語が寺院社会以外の女性たちも享受していたと指摘した。また、8月にベルギー・ゲント大学で行われたEAJS2023Conferenceでは「Greeting the Buddha : the Met’s “A long tale for an autumn night”and the “Welcoming ceremony”(mukaeko) at Ungoji temple」という題目で、メトロポリタン美術館本『秋夜長物語』の成立に浄土宗西山派が関与している可能性を指摘した。 1月の伝承文学研究会名古屋例会・名古屋中世文芸・歴史研究会では「国会図書館蔵『義経奥州下り』について」という題目で、諸本と比較したうえで国会本の特徴についてまとめた。国会本の絵には飛鳥井一位局筆とされるスペンサー本『屋島尼公物語』の影響と考えられる描写も見られる。本作は女性の幸若舞曲などの語り物や『義経記』などの軍記の享受や戦国期の文化サロンを考えるうえで重要な作品である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の課題としていた『義経奥州下り』、『恋路の草子』、『屋島尼公物語』の分析は進み、2023年度はその成果を発表する機会を多く得た。しかし、海外へ資料調査へ行く機会がなかなか得られず、調査が完了していない。また、『恋路の草子』や『みなつる』における『秋夜長物語』への言及から、女性と児物語との関わりについても注目し、2023年度はその成果を発表する機会を得たが、これはまだ研究の過程で明らかになったものに過ぎず、女性筆者や読者との関わりについての考察は今後の課題となっている。当初の見通しよりも調査や研究が必要な作品が増えており、すべての作品を網羅的に分析できていないという点において、やはり進捗はやや遅れていると言わざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
まずはボストン美術館『うたたね草子』と、ニューヨーク公共図書館『屋島尼公物語』の調査を最優先で進めていく。実際に調査の行えた作品については極め札等の付属資料の情報をまとめ、データベース化していく。また、作品における使用語彙や絵の比較を行っていく必要性があるが、そのための準備を進めていく。さらに、すでに発表した研究成果を論文にするとともに、現段階で明らかになったことを報告書としてまとめる予定である。
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