研究課題/領域番号 |
19K13084
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
粂 汐里 (笠原 汐里 / 粂汐里) 国文学研究資料館, 研究部, 特任助教 (50838050)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 幸若舞曲 / 説経 / 古浄瑠璃 / 常盤問答 / 源義経 / 語り物 / 判官物 / 絵巻 |
研究開始時の研究の概要 |
〈判官物〉とは、悲劇の英雄・源義経、およびその周辺人物を題材とした作品群のことである。〈判官物〉は様々な古典作品の題材となったが、15~17世紀に物語草子や軍記『義経記』が生み出され、最も華やかな時代を迎えた。中でも多くの〈判官物〉を生み出したのが、16~17世紀に流行した語り物というジャンルである。 語り物とは口頭で長編の物語を語る芸能、および、それを挿絵入りの読物にした文芸のことであり、幸若舞曲、説経、古浄瑠璃が代表的である。本研究では〈判官物〉という視点から語り物の文字テキストと絵画資料を分析し、語り物が同時代の文学、美術、芸能、民俗に与えた影響を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究では、〈判官物〉に分類される語り物(幸若舞曲、説経、古浄瑠璃)の作品について、次の四つの段階で研究を推進する。 (1)国内外の〈判官物〉作品の調査、書誌・画像データの収集/(2)語り物の〈判官物〉の上演記録の調査/(3)語り物の〈判官物〉テキストの比較検討/(4)〈判官物〉絵画の比較検討 2022度は、(1)で調査・収集できた〈判官物〉作品の書誌・画像データを元に、(2)~(4)の作業を重点的に行い、採択が決定した令和4年度研究成果公開促進費(学術図書)による『中近世語り物文芸の研究―信仰・絵画・地域伝承―』(三弥井書店、2023年2月)を刊行し、第一部第三章に当該研究の成果の一部を収載した。上記の単著では言及しきれなかった個人蔵『ときわ物語』、神戸女子大学古典芸能研究センター志水文庫蔵『判官鞍馬登』の詳細については、2021度に行った書誌調査をふまえながら2023年3月18日に開催された伝承文学研究会第484回東京例会において「『ときわ物語』について」と題し発表を行った。また、『中近世語り物文芸の研究―信仰・絵画・地域伝承―』を準備する過程で確認が必要となった堺市博物館寄託幸若舞曲等扇面画帖などの作品調査も同時並行で行った。当初の計画では2022年が最終年度であったため、本研究の後継として〈判官物〉研究から派生した二つの研究課題を新たに計画し、一つはすでに令和5年度若手研究「中近世移行期における幸若舞曲の享受と武家文化をめぐる基礎的研究」(課題番号23K12105)として研究活動を始めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、2017年より継続して調査を行っている高僧と女性の問答を主題とした物語である『常盤問答』の異本系写本群についての調査と論文化に取り組んだ。これまでに調査できた異本系『常盤問答』の写本6点と、新たに現存を確認できた個人蔵の異本系写本1点、古浄瑠璃系と考えられる学習院大学蔵『常盤物語』1点、個人蔵『ときわ物語』1点について書誌データの整理、本文の翻刻を行い、個々の作品の成立年代の特定、問答を構成する41の話題を一覧表にまとめ、問答ごとに本文を比較し、影響関係を精査した。その結果、異本系写本群には、幸若舞曲の本文にはみえない、中世社会に流布した『血盆経』や、『伊勢物語』注釈書、中世神道書に記される女性の穢れと救済、男女の営みと人間の誕生といった生殖に関する記述が確認でき、女性の存在意義を正当化せんと異本系統が編まれ、江戸期を通じて流布したことが明らかにとなった。また、問答の一部には幸若舞曲や古浄瑠璃系テキストと共通する本文も確認でき、今後は幸若舞曲、異本系写本群、古浄瑠璃系のテキストが、どのような過程で個々に生み出されてきたのか、その系統図を描くことを目標に、研究を進めることとなった。以上の研究結果を「異本『常盤問答』考」と題して論文にまとめ、令和4年度研究成果公開促進費(学術図書)による『中近世語り物文芸の研究―信仰・絵画・地域伝承―』の第一部第三章として収載した。
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今後の研究の推進方策 |
『中近世語り物文芸の研究―信仰・絵画・地域伝承―』刊行後に新たに財団法人正宗文庫(岡山県備前市)、佐賀県立図書館にも異本系写本の所蔵が確認できたため、今後はこれらの伝本の書誌調査を計画している。また今回解明できなかった弘法大師の母に関する説話等の出典・関連文献も調査する。
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