研究課題/領域番号 |
19K13137
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
福岡 麻子 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (40566999)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 語り / カタストロフィ / イェリネク / 聞く / 聴く / 災厄 / 物語 / オーストリア文学 / 物語論 / 現代文学 / カタストロフィ論 |
研究開始時の研究の概要 |
【1】2000年代のオーストリア現代文学を例に、災厄について語る方途の諸相を明らかにし、【2】その語りのモデルを示すことである。戦後生まれ世代にとっての第二次大戦のように、何らかのメディアを介して媒介的に(のみ)災厄に接する経験には、語りの固有性を見てとることができる。本研究では、テロや震災など今日の災厄以降、文学において新たに展開されるようになった「死者とのコミュニケーション」という主題に着目する。そして、同時代の災厄への応答と比較しつつ、後継世代が「過去」との取り組みとして行う文学的「死者とのコミュニケーション」の方法を示す。
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研究実績の概要 |
本研究課題の核心を成すのは、同時代に、しかし地理的には離れた場所で起きた災厄の「間接的な」体験について、オーストリアの現代文学ではどのように語られているか、という問いであり、これを種々の文学的方法による「死者とのコミュニケーション」に着目しつつ考察した。これに基づく前年度までの課題遂行において、等閑視しえない視点として、次のことが浮上した、すなわち、災厄や主体の経験、またその語り方を方向づける要素として、ジェンダーが根本的な役割を果たしているということである。これに照らして本研究課題の根本的な視座を改め、本年度は災厄の経験・体験とジェンダー、またフェミニズム(運動)の経験のかかわりといった観点から、エルフリーデ・イェリネク、および、イルゼ・アイヒンガーの諸作品について考察と比較を行った。災厄について文学が語る際、書き手のジェンダー観やそれぞれの属する時代・社会にドミナントな規範等により、焦点化される切り口、それを形にする方法に相違が生じる。 本年度はこのことについて導入的に考察し、その研究成果は、国際共著書(分担執筆)への論考寄稿、および、一般開放のシンポジウム発表にて公表した。具体的には、1)何らかの対象を「描く」「写す」のとは対極的な方法をとるアイヒンガーとイェリネクに共通してみられる言語観、また両者の背景となる歴史的コンテクストについて考察した。また、2)ナチ時代の女性収容所の証言者の言葉を文学はどのように「聴く」のか、その応答の文学的方法の一例について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に浮上した新たな観点による考察のため、資料収集等を基礎的な部分から行う必要が生じた。また、行動規制そのものは緩和されたものの、新型コロナウイルス感染症による海外渡航の困難さが解消したわけではない。ウィーン大学イェリネク研究所の厚意と協力によって一定の資料を手にいれることができ、また、同研究所主催のシンポジウムでもビデオにて発表を行うことはできたが、現地研究者らへの聞き取り等においては依然として制約があった。以上のことから、限られたコンテクストにおける考察をすることを余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
以前であれば相対的にアクセスの容易であった資料や現地の最新の「生」の情報に手が届きにくくなり、上述のように、「限られたコンテクスト」における考察を余儀なくされた。これを踏まえ、ヨーロッパの文学を東アジアで研究することの意義と方法的可能性について根本的に問い直しつつ、前年度は導入的に着手した「ジェンダーと災厄の語り」の観点からの考察を進める。 前年度の成果に基づき、災厄と文学という課題について、以下の調査・考察を行う。 ・ジェンダー規範と規定し合うものとしての戦争、またその体験を文学はどのように問題化しているか ・性的に方向づけられたものとしての戦争体験を文学はどのように受け止め、言語化しているか ・上記の点は書き手の属する世代により相違がみられるか 2024年度も海外渡航に不自由がなくなるわけではないと予想されるものの、オンライン形式が残る学会には参加しつつ、国内外の研究者とコンタクトを図り、研究の質のコントロールを行う。
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