研究課題/領域番号 |
19K13421
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03060:文化財科学関連
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研究機関 | 東京藝術大学 (2020-2022) 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 (2019) |
研究代表者 |
貴田 啓子 (大原 啓子 / 貴田啓子) 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 准教授 (20634918)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 紙の保存修復 / セルロースナノファイバー / 緑青焼け / 紙の保存修復処置 / セルロース / TEMPO酸化ナノセルロース / SEC MALLS |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、日本の修復処置現場で数多く直面する「紙の緑青焼け」を生じた紙質文化財の新規な洗浄方法として、劣化の原因物質である銅イオンを、植物繊維由来のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)のゲルにより捕獲し、文化財資料に金属イオンを残さない洗浄処理を検討する。 「緑青焼け」の劣化モデル試料を作成し、TOCNゲルにより洗浄する。これらの紙試料について、残留銅イオン量および各種物性の変化を明らかにし、水による洗浄処置に比較して、TOCNゲルの洗浄能力や安全性を評価する。また、処置後の紙試料に湿熱加速劣化処理を施し、紙の劣化挙動に与えるTOCNゲル洗浄の影響を確認し、安全性を確認する。
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研究実績の概要 |
紙質文化財の顕著な劣化現象のひとつに、色材由来の金属イオンによる紙の酸化劣化、すなわち紙の「焼け」がある。日本の文化財修復処置の現場では、「焼け」に効果的な処置方法が見出されておらず、水による洗浄のみを行っている。本研究では、劣化の原因物質である金属イオンを、植物繊維由来のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)のゲルにより捕獲し、文化財資料に金属イオンを残さない洗浄処理を検討することを目的とする。本年度は、昨年度に引き続き、実資料のゲル洗浄処置方法の検討に寄与する情報を得ることを目的に、加速劣化させた層構造を持つ紙試料について、焼けの要因である金属イオンの影響について、確認した。紙質文化財資料の多層構造(本紙および裏打紙)において、緑青顔料の塗布部分では、本紙直下の裏打紙で緑青の影響(緑青由来の銅成分の影響)を強く受けた劣化が進行し、本紙から離れるほどその影響が小さくなる。しかし、本紙から最も離れた外側の裏打紙は外部の影響をより受けることを示唆する結果が得られ、劣化期間とともに両者の影響が推移することを見出した。一方、TOCNの調製では、昨年に引き続き、楮の靭皮繊維を用いた場合の、TEMPO酸化の程度の確認は概算で行うことで進めていたが、TEMPO酸化の進行を確認できなかった。従って、市販の針葉樹パルプ由来の繊維を用いたTOCNでゲルを作成する方向に切り替え、ゲルの調整条件を検討した。ゲルのpH測定、洗浄に用いた場合の残留物の確認を進め、文化財資料にゲル処置を行うことの安全性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度実施していた実験室人数制限は、今年度かなり緩和されたため、外部のアルバイトを入れた実験および試料の調製は進めることができた。しかし、昨年の遅れを取り戻すまでには至らず、研究進捗状況としてはやや遅れている。洗浄試験に使用する加速劣化緑青焼け劣化試料の追加の加速劣化は全て完了し、洗浄試験は行える状態であるが、楮の靭皮繊維を用いたTEMPO酸化の評価がうまくいかなかったため、洗浄試験には、市販のパルプの繊維から作成したTEMPO酸化ゲルの洗浄処置で代用して進めることに切り替えた。そのため、洗浄処置の開始が遅れており、現在、安全性の評価を進めているところである。全体的に、前年度の遅れが大きく響いて、後ろ倒しになっており、当初の予定よりは、遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
市販のパルプ繊維原料のゲルではあるが、その調製方法は確認でき、紙資料に処置する際の安全性についても、残留物等のレベルの確認ができたため、洗浄試験の実施を進める。加速劣化した緑青焼け紙試料にゲル洗浄処置を施す試験を行い、その前後において、ゲル中の銅イオン濃度を測定する。ゲルの洗浄の条件については、時間や方法を調製し、最適化条件を検討する予定である。ゲル中の銅イオン濃度が高いほど、洗浄効果が大きいと考えられるが、TOCN中のカルボキシル基に銅イオンが捕獲され、洗浄効果を示すことを期待していることから、処置前後のカルボキシル基量の定量も合わせて行うことを検討している。最終年度の予定としては、これらの結果をまとめて、文化財保存修復学会に発表予定である。
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