研究課題
若手研究
本研究はフィンランドにおいて進む高齢者ケア制度のプライヴァタイゼーション(私事化/民営化)についての実地調査である。これまで公的セクターが担ってきた高齢者ケアは、親族介護の拡大が公的に支援されるという意味で私事化が進む一方、民間企業の参入による民営化が推し進められる状況にある。福祉国家の規模縮小という共通の背景から同時並行的に立ち上がってきた2つの私的領域の拡大は、どのようにお互いと接続しているのだろうか。民間のケアサービスと親族介護が共に行政によって振興される状況についての記述から、私事化/民営化の動きを一つのプライヴァタイゼーションという現代社会における大きな流れとして理論化していく。
本研究は、フィンランドの高齢者ケア制度の私事化/民営化の進展状況を明らかにする為、行政の在宅介護チームにおける組織改革と効率化が現場にもたらした影響について参与観察を実施した。また、高齢者ケアをめぐる自己選択と家族・親族関係についての理解を深める為、親族介護や住宅をめぐるケアを実践する高齢者への継続的なインタビューを行った。さらに、高齢者ケアサービスに関わる技術を提供する私企業に対し、行政機関を顧客とする企業からみた公益性とケアの概念についてのインタビューを行った。こうした調査の結果、高齢者自身だけではなく、高齢者を取り巻く家族・親族・ケアワーカーについても個人化が進展していることが判明した。
本研究は、高齢者の日常生活を成り立たせる多様なケアの配置において企業・親族・高齢者個人が相互に関係しあう様態を理解することで、複数の私的領域間のつながりを十全に示してこなかった他の人文社会科学領域の研究に対して有効な事例とロジックを提供する点で独自性を持つ。さらに、北欧型福祉国家として知られるフィンランドの新自由主義的な方向転換について、公的に発信されている情報ではなく人々の経験を記述することは、すでに介護の商品化が進んだ日本に対し、新自由主義への軟着陸がどのような妥協点において可能であるのかという喫緊の課題をめぐる創造的な知見をもたらすものである。
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Archives of Gerontology and Geriatrics
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10.1016/j.archger.2023.105137
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