研究課題/領域番号 |
19K13460
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
栗田 梨津子 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (10632672)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | 新自由主義 / オーストラリア / シティズンシップ / 先住民 / 非白人計移民・難民 / 非白人系移民・難民 / 非白人系難民 / 市民意識 / 非白人 / 難民 / 多文化主義 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、多文化主義が後退するオーストラリアにおける先住民と非白人系移民・難民の関係性に着目し、社会的排除の経験を共有するマイノリティ集団間の相互交流や対話を通して形成されつつある新たな市民意識の実態を明らかにする。特に、同国における「非白人性」の形成過程の解明、各集団による「非白人性」(白人ではないことによる構造的な社会的排除)の経験と市民意識の検討、人種やエスニシティの違いを超えた「第三の市民」の可能性の検討を通して、最終的に先住民と非白人系の移民・難民のシティズンシップをめぐる包摂と排除の構図と、それに対抗し得る市民像について理解するための理論を構築する。
|
研究実績の概要 |
今年度は昨年度に引き続き、新自由主義時代のオーストラリアにおいて「望ましくない」市民として分類された先住民と非白人系移民・難民間の共存を志向する市民意識を理解するための理論構築を試みた。とりわけ、新自由主義的政策の下で福祉サービスの利用を制限された人々やその支援者の間で醸成された「ケアの倫理」に基づく情緒的コミュニティの実態と可能性と限界について、シドニーでの市民による草の根の相互扶助活動に関する補足的な現地調査により考察を行った。その結果、困窮し、社会において周縁化された人々が、集団の垣根を越えて苦悩の経験を共有する中で生まれたコミュニティでは、弱さを曝け出しながら他者の苦しみに関心をもち、互いに「気遣う/気遣われる」という関係が築かれつつあることを明らかにした。また、そこでは相互扶助の実践の中で、支援を与える白人対支援を受ける非白人という従来の人種関係が一時的に転覆されることもあったことを指摘した。そしてそこで形成された市民意識は、個別具体的な文脈において他者に配慮し、他者との関係を保とうとするケアの倫理に基づく関係性として捉えることができること、またそこでは、人種やエスニシティを超えた相互の気遣いや共感による連帯感が生まれ、対等な立場にあるメンバーの間で水平的なシティズンシップが形成されていたことを明らかにした。しかし一方で、ケアの倫理に基づくコミュニティや市民意識は新自由主義的統治の結果として生まれたものでもあり、それがケアの倫理が新自由主義のなかに取り込まれると、ケアが新自由主義の遂行のために搾取される可能性もあることも指摘した。これらの成果の一部は、国際学会で発表するとともに、現在単著出版の準備を進めているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に引き続き、コロナ禍で延期していたオーストラリアでの現地調査を行うことができ、非白人性を軸とした第三の市民像の実態の解明に必要な一次資料を収集することができた。また、研究成果の総括に向けて、これまでの現地調査を通して既に得られたデータに加え、文献資料およびインターネット上で収集したデータを基に整理・分析を行っている。また、本研究課題の成果をまとめた単著を現在執筆中であり、全体的に滞りなく進みつつあるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
補助事業期間延長申請をし、認められた。今年度はこれまでの現地調査で得た一次資料をもとに第三の市民意識をめぐる理論構築を行い、論文執筆および単著出版を通して、研究の総括を行う予定である。
|