研究課題/領域番号 |
19K13467
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
齋藤 典子 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (20714223)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2021年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 総数1763点の「下田市須崎区有文書」 / 「須崎区有文書」調査とデータの保存活動 / 「山海出入御裁許証文差上申一札之事」の発見 / 現在の漁業権の基礎となる「磯の権利、山の権利」 / 海女の天草漁の文書史料が150点存在 / 天草の販売、流通、消費 / 伊豆テングサの 流通経路と寒天産業 / 江戸時代から続く南信地域の寒天産業 / 日・台・韓の海女労働の対照比較 / 採藻漁民の海洋資源の利用と資源分配 / 漁撈行動がもたらす資源の枯渇化と保護 / 海藻の販売、流通、消費 / 伊豆テングサの流通経路に発達した寒天産業 / 下田市須崎区有文書調査と文書の保存活用 / 「アマ」と呼ばれる潜水漁民の漁労活動 / 日台韓のアマの漁撈活動の対照比較 / 日台韓の潜水漁民と漁場利用のルール / 海洋資源の利用と資源管理 / 共同体内における「贈答」に名を替えた資源の分配 / テングサの流通と販売戦略 / ジェンダーによる経済的格差 / 「アマ」と呼ぶ潜水漁民の労働 / 日台韓のアマの漁撈活動 / 共同体内における資源分配 / 労働とジェンダー / ジェンダー経済学 / 海洋資源の利用と管理 / 台湾原住民 / 日本、台湾、韓国のアマ漁の比較 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで「済州島と日本にしかアマ(海女)は居ない」と言われてきた。しかし台湾にもアマが居ることが明確になった。本研究の遂行で済州島からのアマの移動ルートに加え、環太平洋地域をつなぐ新たなルートの解明が期待される。日本と同様に台湾、韓国でも高齢化によるアマの減少が進む中、伝統技術を持つアマのオーラルヒストリーを記録する重要性は高い。そして日台韓の潜水漁をジェンダー経済学の視点で対照比較することは、漁民労働の具体的な資料を残す上でも意義深い。さらに植民地時代の漁業政策を経験した台韓両国が現在行う海洋資源の分配と資源管理について調査研究する事は、将来の日本漁業を考える上でも重要だと考える。
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研究実績の概要 |
1)2022年3-7月、南伊豆で採藻したテングサの出荷先である長野県茅野市、諏訪市の寒天製造工場で製造過程、製品種類、販売先調査を行う。更に江戸末期より現代までの寒天産業の歴史文献調査を行う。2)2021年より継続してきた『須崎区有文書』の調査・保存活動(代表 齋藤典子、協力者5名)が終了した。文書総数1763点、実写枚数3万枚を撮影した結果、既存目録の他に新たに「補目録」として138点の文書を採録する事ができた。その中には、須崎の磯の権利、入会地に関わる山の権利が明記された安永2年(1773年)の「山海出入御裁許証文差上申一札之事」がある。同書は、筆者の研究目的である潜水漁民が現在行う海洋資源利用や資源分配、資源保護の鍵となる漁場利用の史的変遷を確認する上で重要な文書でもある。また、『須崎区有文書』には、テングサ漁に関する貴重な文書史料が150点近く存在する事が明らかとなり、今後の海藻研究に寄与できると考える。3)2022年 6月、須崎区協議会と「須崎区有文書の保存・活用に関する覚書」を交換、今後は、調査成果の報告会などの活動を通じ、住民に『須崎区有文書』に関する情報の発信を約束した。4)2023年3月、須崎区協議会に撮影データを納めたHDDと「統合目録」、「調査報告書」を寄贈。また、『須崎区有文書』の展示・解説会を開催し、100名近い住民に聴講いただく。本プロジェクトについては、写真撮影、撮影データの整理、目録作成、展示・解説など、石川亮太・立命館大学経営学部教授、古谷野洋子・神奈川大学日本常民文化研究所特別研究員、古谷野昂・民俗写真家、塚本明・三重大学人文学部教授、藤川 美代子・南山大学人文学部准教授の協力を得た。5)『須崎区有文書』の「調査報告書」と「統合目録」は、下田市教育委員会、下田市立図書館、静岡県立図書館、神奈川大学日本常民文化研究所に寄贈した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1)2021年上期は、2020年度から続くコロナによる海外渡航制限のため、韓国、台湾での調査ができなかった。そのため韓国済州島の海女の海洋資源利用における共益性や公平性について明確な知見を得る事ができなかった。さらに潜水漁を行う台湾原住民・達悟族の漁場利用や海洋資源保護のための伝統的な漁労ルールについても詳細を知ることができなかった。 2)筆者は、2022年3月にコロナワクチン接種を受けた際、アナフィラキシーを起こした結果、自己免疫疾患である膠原病の一つ「成人スティル病」となった。その為、8-10月までの長期入院の後、現在も通院中である。今後は、体調を見ながら、2023年度中に台湾東北角の澳底、龍洞地区、韓国・済州島の潜水漁民については、調査を遂行する予定である。 以上の理由により、研究目的である日・台韓の潜水漁民の海洋資源利用と資源分配、資源保護については、韓国と台湾のフィールドデータが不足するため、対照比較は、十分にはできない可能性が高いが最善を尽くしたい。
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今後の研究の推進方策 |
[1]2023年度上期は、体調との兼ね合いを見ながら、以下の 3点について文献研究を進める予定である。1)『下田市須崎区有文書』内にある150点のテングサ史料について漁場利用と利益分配について新たな事実を探索する。2)明治以前より、諏訪地方の寒天生産の原料として使われてきた伊豆のテングサについて、寒天需要の歴史的背景、換金作物として多大な経済貢献、テングサ売買のキーパーソンとなった商人・綿屋吉兵衛についての文献研究を進める。3)台湾蘭嶼島の達悟族の調査は、2023年度内は、身体的に無理だと考える。そのため漁場利用や海洋資源保護のための伝統的な漁労ルールについて、台湾の海洋作家シャマン・ラポガン(夏蔓・藍波安)氏の著書やプログを参考に考察する。 [2]フィールド調査については8-9月以降、遂行したい。1)8月中旬から10日間、台湾基隆から東北角の澳底、龍洞地区で潜水漁民としてテングサ漁を行う男性と女性の聞き取り調査を3年振りに再開したい。特に台湾の漢族の漁場認識を元にした漁撈行動について深く調査をする予定である。また、海女として50年以上潜るGさんのライフヒストリーの続きも伺いたい。 2)済州島の海女が潜水漁を行う漁場や海洋資源の分配には、海女を統括する組織、「海女会」と「漁村契」が大きな役割を担うと考える。韓国の研究者による海女研究では、詳細が書かれていないため、調査を行いたい。更に済州島の日本へのテングサ輸出についても調査を進める予定である。 以上の事を遂行し、調査報告書の作成へとつなげたい。
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