研究課題/領域番号 |
19K13503
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分05020:公法学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 (2023) 朝日大学 (2020-2022) 南山大学 (2019) |
研究代表者 |
三上 佳佑 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 助教 (80805599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 大臣責任制 / 委任立法 / フランス憲法 / 憲法史 / 議院内閣制 / 大臣弾劾制 / 法制史 / フランス憲法史 / 議会制 / 弾劾制 / フランス公法学 / 憲政史 / 政治司法 / 政治法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、1789年のフランス革命から今日に至るまでのフランス憲政史の展開を「大臣責任」という視座から再検討する試みである。「大臣責任」、すなわち、執行権の主要な担い手である大臣が、いかなる事由に関していかなる形で責任を問われるかという事柄は、憲法学上の重要な理論的関心事であると同時に、民主主義の母国であるフランス近現代にとっても重要な実践的関心事であった。本研究は、刑事責任に基づく弾劾制度から、政治責任に基づく責任内閣制へと移行していったと従来説明されてきた大臣責任制の歴史的発展過程について、フランス憲政史に基づく実証的研究による再検討を試みるものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、フランス革命以降、現在(第五共和制)に至るまでのフランス憲政・議会政治の歴史的文脈の上で、「大臣責任」の制度及び動態が如何なる形で現象したかを跡付け、そこから遡って、「大臣責任」が必要的構成要素となっているところの「議院内閣制」という制度的枠組みのフランス的特質を顕在化させようとする問題意識に基づいた歴史的研究である。研究開始当初からのこのような問題意識の純粋な延長線上において、23年度における本研究の遂行過程は、第三共和制と第四共和制という、フランス憲政史上、共和政体の展開過程において、理論的にも最も重要で論争的な歴史的段階についての、22年度以前よりもより内在的で集中的な分析に当てられた。 そこでのテーマは、第三共和制および第四共和制における「委任立法」である。委任立法は、フランス第三共和制が第一次世界大戦という有事に直面した際に導入され、その後の経済恐慌において政治的常態として定着した政治技法である。しかし、この技法はただ単に「非常時」において機会便乗的に導入された訳ではなく、その背後には資本主義の高度化に伴う積極国家像があり、立法権をマージナライズする行政国家的発想が前面にある。本研究は、それまでのフランス共和制が議会主権的な発想に偏り過ぎていたが故に、政策集団としての大臣グループが恒常的に政治的自律性を欠落させており、結果として、議院内閣制が跛行的展開を余儀なくさせられていたという理解を前提とする。それ故、本研究にとって、20世前半以降の委任立法体制の導入が、フランス大臣責任制の展開にとって、どのような「関数」として評価できるかを実証的に分析することが重大な作業となったのである。 以上の作業の結果は、『早稲田法学』第99巻第3号に「フランス第三・第四共和制下における委任立法制度の意義-大臣責任制との連関において-」と題する論説の形で公表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初より、フランス大臣責任制の全貌を、政治責任原理に基づく枠組(≒議院内閣制)と刑事責任原理に基づく枠組(≒大臣弾劾制)の両極から分析し、二つの極の距離および相互作用を見極めることで明らかすることを目的とするものであった。本研究は、研究対象の性質故に歴史的アプローチが求められるものであり、それは特定の歴史的段階性・政体を「それが特に重要である」という理由で抽出する仕方では恣意性が免れず、必然的に通時的なアプローチが要請される(垂直的比較法としての歴史的アプローチ)。このような次第で、本研究は、その分析の量的側面の規模が大きくなり、研究に要する時間も必然的に頂戴となりがちな傾向にあることは否めない。 本研究課題が研究期間の延長を重ねたことの背景には、以上のような本研究内在的な理由があると同時に、20年度及び23年度の二回、所属研究機関の変更(移籍)が重なったこと(かつそのような事情がコロナ禍の開始と展開、緩和という激変期に生じたこと)が、同様に重要な事情として存在したことも否めない。一般に、研究教育環境の変更は、研究課題に充てられるべきエフォートに対し、無視しえない影響を及ぼすものである。 とはいえ、23年度において、本研究は通時的な段階を脱し、より理論的な段階に到達する様相を見せている。通時的な分析の資料的価値はもとより否定されるべきではないが、より理論的な問題関心に重心を移した研究は、学界に裨益する点もより大きなものではないかと期待している。研究の全体像から俯瞰した際、本研究の進捗段階は、以上のような諸般の事情を考えあわせれば、いちおう十分と評価してよいものと思料している。
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今後の研究の推進方策 |
現時点において、本研究課題が当初想定していた通時的なアプローチによる検討は概ね完結した段階にあるとみて良い。従って、今後の研究の推進方策としては、通時的で(一次資料に大きく依拠した)実証的方法に基づくフランス憲政史研究のみならず、大臣責任制に関する、同国の公法学説により大きく依拠した、理論的分析を深めていくといった発展の仕方が、一つは考えられるところである。 他方で、フランス憲政史内在的な問題としてフランス大臣責任制を扱うのみならず、フランス大臣責任制の特質を比較法的地平において浮き彫りにさせるため、イギリスをはじめとする他国との比較へと分析の目線を写すことも、あり得る研究推進方策である。大臣責任制はフランス憲政にとって、飽くまでも継受物-言うなれば「借り物」-にすぎない。23年度までの本研究の成果は、このことを十分に明らかにした。つまり、そこでの研究成果からは、「フランスにおける」議院内閣制を「フランス型」と範型化する比較法的常識感覚とは裏腹に、フランス憲政の当事者意識は、継受物に対して距離をとった「対自的」なものであることを明らかにしたのであった。そうであればこそ、特定の国の政治文脈における自生的秩序の歴史的生成物を「継受」するということが果たして何を意味するか、という点について、本研究を発展的に展開することは、比較憲法学の基礎理論に対して裨益するところ少なくないであろう。「外国憲法研究」からのより高次な質的発展も期したうえでの、今後の研究の推進方策設定の所以である。 いずれの方策を指向するにせよ、できうる限り実証的な方法論に基づくというこれまでのアプローチはそれとして維持したいところであり、そのうえで、理論的分析の質をどこまで高めることができるかが、本研究にとっての課題であると認識している。
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