研究課題/領域番号 |
19K13745
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07060:金融およびファイナンス関連
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研究機関 | 名古屋商科大学 |
研究代表者 |
小林 武 名古屋商科大学, 経済学部, 教授 (70751486)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 社債スプレッド / 期間構造 / マクロ経済 / マクロ経済変数 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、本邦の社債スプレッドの期間構造に着目し、マクロ経済変数を取り込んだ個社別の社債スプレッドモデルを構築し、社債スプレッドの期間構造を変動させる潜在変数とマクロ経済変数との相互依存関係を明らかにすることを目的とする。さらに社債スプレッドの構造変化・局面変化を捉えるために、パラメータのレジーム・スイッチを許容したモデルの拡張を試みる。これらの研究は、社債スプレッドの評価モデルやマクロ経済変数の予測に新たな知見を提供するとともに個別企業単位で社債スプレッドとマクロ経済変数との関係を把握できる点でリスク管理の高度化や社債投資戦略への応用、政策対応への示唆を考察する上で意義を持つと考えられる。
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研究実績の概要 |
本研究課題に関して2022年度の実績は以下の3点が挙げられる。1点目は、Doshi et al(2006)などで提案された動的ファクターモデルに関するEMアルゴリズムとカルマンフィルタを組み合わせた疑似最尤法を期間構造モデルの推定に応用した。同推定手法は、観測方程式および状態方程式が線形システムで記述できるため、推定されたパラメータが統計的に望ましい性質を有し、かつ推定が迅速に行える点が長所である。同手法を先進国の複数の国債金利の期間構造モデルに適用する試みは、Coroneo et al(2018)などで行われている。一方、社債スプレッドを対象とする本研究課題では、複数の社債スプレッドを統一的にモデル化することから、未知パラメータが増加し、推定負荷がかかり、パラメータを識別するための様々な制約条件が必要になる。2点目は、社債市場の流動性を示す指標の検討を行った。具体的には、Hu, Pan and Wang (2013)に倣い、イールドカーブの実測値と金利の期間構造モデルの推定値の誤差を流動性指標ととらえ、その時系列データを作成した。同指標は最近の債券市場に関する実証研究で流動性を示す指標として採用されており社債スプレッドの共有ファクターを説明する外生変数の有力な候補となりうる。3点目は、2021年度に取り組んだ個別銘柄の社債のイールドカーブの推定に関する分析結果を、国際学会(The 16th International Conference on Computational and Financial Econometrics (CFE 2022) London)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況は以下の3点にまとめられる。第1に、本研究課題のベースとなる複数の社債銘柄のゼロクーポンイールドを推定した。社債スプレッドの推定銘柄数を拡充する過程で、様々なイールドカーブモデルを用いて、本邦社債の実データに適合するイールドカーブの推定方法を検討した。さらに、パラメータ推定する際に社債の流動性を考慮した重み付き最適化の手法を検討した。当該アプローチは、当初研究計画には明示的に検討していなかったテーマである。第2に、個社別のマクログローバルファクターモデルを開発し、パラメータ推定方法を従来の最尤法を代替する他の統計手法(マルコフ連鎖モンテカルロ法・EMアルゴリズムとカルマンフィルタを組み合わせた疑似最尤法)に注力した。第3に社債スプレッドの共通要因を説明するマクロ経済変数を含む外生変数の選択に関しては、日米の先行研究を調査し、社債スプレッドと関連性の高い指標を選出した。さらに流動性指標については、時系列データを独自に構築した。データ社債スプレッドの期間構造とマクロ経済の関係については、社債スプレッドの期間構造がマクロ経済変数の予測のどの程度有効かに関する分析を行った。特に、社債スプレッドの傾き因子の予測可能性が景気予測に有効であることを示すことができた。また、当該業績を論文にまとめることに注力し、海外専門誌に採択された。一方、当初研究計画で予定していた社債スプレッドの期間構造とマクロ経済変数との相互依存関係の分析や非線形への対応、リスク管理などへの取り組みは、次年度の研究課題となった。 以上の点を総括すると個社別の社債スプレッドの推定に関しては、当初の計画と比べると、個別銘柄とパラメータの推定方法に時間がかかってしまった。社債スプレッドの期間構造とマクロ経済変数との相互依存関係についての分析にはいたらなかったため、やや計画対比遅延していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究の推進方策は以下のとおりである。 これまで取り組んだ金利の期間構造モデルと推定方法を駆使し、社債スプレッドのマクロファイナンスモデルを推定する。検討する期間構造モデルは、無裁定条件を課さない動的ファクターモデルから着手する。その後、よりパラメータ推定の難易度が高い無裁定条件を課したアフィン型の期間構造モデルの社債スプレッドの応用に取り掛かる。こうした順序で研究に取り組む理由は、前者のモデルで銘柄数が多く推定負荷の高い社債スプレッドの共通要因の推定精度の確認が優先すべきと考えるためである。なお、未知パラメータ推定方法に際して、2022年度の取り組んだマルコフ連鎖モンテカルロ法,2022年度の取り組んだカルマンフィルタを組み合わせた疑似最尤法などを検討する。モデルから推定された共通ファクターとマクロ経済変数を含む外生変数との関係について調べる。2019年度から2021年度までは、社債スプレッドの期間構造からマクロ経済変数の予測可能性について考察を行ったが2023年度は、社債スプレッドの期間構造とマクロ経済変数の相互依存関係を調べる。具体的には、インパルス応答関数、分散分解により社債スプレッドの期間構造の共通要因が個別要因に与える影響度や社債スプレッドの共通要因とマクロ経済変数の動学的な相互依存関係を調べる。更なる取り組みとして、社債スプレッドの非線形性を鑑み、レジームスイッチング期間構造モデルを推定やリスク管理・投資戦略への応用に取り組む。
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