研究課題/領域番号 |
19K13818
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07080:経営学関連
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研究機関 | 西南学院大学 (2021-2023) 松山大学 (2019-2020) |
研究代表者 |
吉野 直人 西南学院大学, 商学部, 教授 (20710479)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 高リスク組織 / 安全管理 / 規則 / 官僚制 / 組織ルーティン / レジリエンス / 社会物質性 / 安全文化 / ルール |
研究開始時の研究の概要 |
小さなミスが重大事故につながるリスクが高い組織では,安全管理の手段として規則が重視されてきた。だが,規則だけで現場の実践を完全に統制できるわけではなく,代替的な管理モデルが求められている。そこで本研究では,規則と現場の実践の非決定論的関係や規則が生み出す多様な実践を統制する管理,現場の実践を梃子にした安全管理などを捉えるための理論的枠組みを検討し,インタビューを中心とした質的調査によって実証する。
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研究実績の概要 |
本年度は,昨年度設定した2つの研究課題のうち,組織学習と事故のパラドクスに関する研究を進めた。 まず,パラドクスを解明する理論的枠組みとしてルーティン・ダイナミクスのレビューを行った。昨年度からの継続作業となるが,今年度は理論的支柱の一つである実践論にまで対象を拡げてレビューを進めた。ルーティン・ダイナミクスとは組織ルーティンの安定と変化を捉える視座であり,ズーミング・インとズーミング・アウトのアプローチがある。前者は特定のアクターが特定のルーティンを遂行する実践に注目し,後者はルーティンのエコロジカルな性質(時間的・空間的な結びつき)に注目するアプローチである。前者はレジリエンス・エンジニアリングの分野での先行研究があるため,本研究では後者のアプローチを採用し,特にルーティンのエコロジカルな性質を捉える2つのメタファーに注目した。一つが建築のメタファーであり,これはルーティンを遂行する実践が他のルーティンのコンテクストを形成するという,ルーティンの時間展開に注目するものである。もう一つは根茎のメタファーであり,これは時空を超えたルーティン間の相互作用に注目するものである。 次に,実証研究の準備として,繰り返し事故を起こしたケースの資料収集を行った。通常,事故は組織の学習不全として説明されることが多いが,ルーティン・ダイナミクスの枠組みを用いれば,組織がルーティンの変化をつうじて学習しているにもかかわらず事故が起きてしまうという矛盾を説明することができる。繰り返し事故を起こすということは,最初の事故から学習していないか,あるいは学習しているにもかかわらず事故が再発したものと考えられる。後者のケースの候補として,日本製鉄(旧新日鐵住金)の爆発・火災事故とみずほ銀行のシステム障害を選び出し,今年度は2つのケースについて,新聞・雑誌記事,オンライン記事,書籍等の二次資料を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の研究計画では,今年度は2つの研究課題(ルールと実践の関係に注目した安全管理とルーティン・ダイナミクスからみた事故研究)について実証研究を進める予定であった。しかし今年度は,所属機関で学科長の就任し校務に時間が取られたため,単年度では予定していた研究を十分に進めることができなかった。一方で,本科研全体の進捗は順調に進んでいることから,総合的に判断して「やや遅れている」とした。 本年度の成果は次の2点である。第一に,人事部を主な読者層とする業界誌とWebサイト向けに,ルールと実践の関係について小論を寄稿した。業界誌では,組織のレジリエンスを生み出す実践の多様性とルールの裁量度の関係について考察した。一般に実践の多様性はルールの制約の程度に依存すると考えられているが,裁量の余地が大きくても多様性が損なわれるケースや裁量の余地が小さいからこそ多様性が生じるケースがあることを指摘した。これは安全管理における規則と実践の関係を分析する上で重要な視点である。Webサイトでは,ルールを行動資源として捉える視点を提示し,ルールが組織のレジリエンスを生み出す可能性,そのためのマネジメントやルール設計のあり方について検討した。 第二に,前述したルーティン・ダイナミクスの議論を踏まえた事故研究の可能性について, 2024年度組織学会年次大会で発表した。具体的には,ズーミング・イン・アプローチの例証としてチャレンジャー号爆発事故(Vaughan, 1996),ズーミング・アウト・アプローチの例証としてアメリカ軍による同士討ち(Snook, 2000)を取り上げ,組織事故が時間展開のなかで複数の要素が絡み合って生じる創発的な現象であること,それゆえ事故の問題性が事後的にしか気づけない不可逆性を持っていることを指摘した。これは組織の学習が事故を招くという逆説的な現象であることを意味する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ルーティン・ダイナミクスからみた事故研究を中心に研究を進め,時間に余裕があれば,組織の失敗に関する研究のレビューとルールと実践の関係からみた安全管理に関する実証研究を実施する。 ルーティン・ダイナミクスからみた事故研究については,今年度進めてきたレビューの成果を論文にまとめて『AAOS Transactions』に投稿する予定である。また実証研究の準備を継続して進め,日本製鉄(旧新日鐵住金)の爆発・火災事故とみずほ銀行のシステム障害のケースについて,ルーティン・ダイナミクスとの整合性を踏まえつつ,ケースの最終選定を行いたい。 組織の失敗に関する研究については,事故や不祥事といった組織の失敗が,特定のアクターの故意や明確な動機が存在しないなかで当たり前に起きてしまうメカニズムの検討を行う。伝統的な安全管理モデルを批判的に検討するにあたって,本科研ではこれまで組織ルーティンや官僚制の議論を中心に理論的枠組みを整備してきたが,これに組織の失敗に関する研究を追加することで,より一層の充実を図る。具体的には,Normal Accident理論(Perrow, 1984)やNormal Organizational Wrongdoing理論(Palmer, 2013)を手掛かりに,組織のメカニズムの逆機能として事故や不祥事が発生するロジックの整理を行う予定である。 ルールと実践の関係に注目した安全管理については,今年度の研究成果として,ルールの裁量度と実践の多様性には多様な関係があることがわかったため,これを前提とした安全管理のあり方を検討したい。特に裁量の余地が大きくても多様性が損なわれるケースや裁量の余地が小さいからこそ多様性が生じるケースに注目し,過去に調査した航空機整備のケースを再分析して論文にまとめたいと考えている。
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