研究課題/領域番号 |
19K14104
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
鵜海 未祐子 駿河台大学, スポーツ科学部, 准教授 (30802235)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 熟議デモクラシー / 相互性 / 闘技デモクラシー / ジョン・デューイ / エイミー・ガットマン / 応答性 / 正統性 / 熟議的民主教育論 / 生き方の様式デモクラシー / 自己変容 / 他者性 / 教育と政治 / 宗教的・道徳的不一致の調整 / 民主教育論と熟議デモクラシー / 教育政策と現代の哲学 / 非理想理論 / エリザベス・アンダーソン / プラグマティズム / 性の多様性 / GSAs / 保健体育 / 理にかなった不一致 / 宗教の自由 / 子どもの学習権 / 教育の政治哲学 / 宗教マイノリティ / デモクラシーと平等 / 再配分と承認 / LGBTQ / 子どものプライバシー / LGBTQ教育政策 / 公教育と宗教 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、カナダの数州で展開されるLGBTQ教育諸政策の動向について「教育の政治哲学」の文脈で比較検討を進める。その際、熟議デモクラシー理論と事例との相互検証を採用する。研究の目的は、数州で実施されるLGBTQ教育諸政策に対する宗教的・道徳的不一致の調整可能性と課題を原理的に解明すること、「公教育と宗教」に関する政策熟議のより客観的な促進原理を体系化することにある。価値多様化社会の教育政策形成や決定において先鋭化する、不一致や価値対立の「妥当な調整」方法の暫定的な原理的解明に挑み、それ自体もまた今後における教育の不正義の事例検討に再適用される中で鍛えなおされる仮説を提出する。
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研究実績の概要 |
本研究の主な目的は、価値多様化社会の教育政策形成・決定の正統性をめぐり、先鋭化する宗教的・道徳的不一致に対する熟議デモクラシーの妥当な調整原理の体系的な探究にある。新型コロナウィルス感染症の拡大を理由とした研究期間延長2年目の2023年度は、前年度にひきつづき、政策熟議としての「相互性」の原理に着目し、その政策思想としての論拠や哲学的な根拠を探求した。第1に、エイミー・ガットマンの熟議的民主教育論の課題と可能性を考究するにあたって、熟議デモクラシー論への批判を展開してきたシャンタル・ムフの闘技デモクラシー論との比較検討を試みた。例えばムフの「民主的な敵対者の受容」は、ガットマンの妥当な不一致を支持する「相互性」や「相互尊重」に親和的であると言えるが、拮抗・対立・権力関係の明示化・前景化という点で相違的であると論じた。しかし暫定的な政策決定と継続的な政策熟議と漸進的な政策実施をうながす政策思想・原理としては、ガットマンの「道徳的不一致の節約」に相対的な現実性も示唆されることを論じた。第2に、ジョン・デューイの民主教育論における哲学とデモクラシーの関係性を紐解くなかで、ガート・ビースタによって展開された、個人単位で民主的人格の産出を目指すデューイの民主教育論批判の妥当性を検討し反論を加えた。その結果、デューイの「個人性」「相互性」「共同性」 の関係構造は、「応答性」が温情主義や慈恵主義にはらまれうる「権力関係の不均衡」を回避するうえで必要不可欠であること、また多数派の専制やポピュリズムや全体主義など、ときにデモクラシーによる包摂と排除の機制がひきおこしてきた個人性の抑圧や差別を回避する諸条件であることを明らかにした。このように、本研究の中心に位置づく「相互性」原理に対して投げかけられてきた教育哲学や政治哲学における批判や行き違った理解と向き合う中で、その再検討・再洗練を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況としては、宗教的・道徳的不一致の調整に資する政策熟議の原理的な探究において、昨年度の教育的位相の解明と接続する形で、教育の政治哲学や政策思想としての「相互性」原理の検討を加えた点で一定の進展が見られたと評価している。例えば、熟議デモクラシー論に対して闘技デモクラシー論との比較検討による相対化を図り、「相互性」原理の再洗練化を進めることができた。加えて、デューイの民主教育論における哲学とデモクラシーとの関連性に着目して、「個人性」と「相互性」や「共同性」の関係構造を明らかにできた。昨年にひきつづき、当初に計画していた現地調査の不足を補うべく、熟議デモクラシー論や民主教育論の範囲を広げた文献解読に集中できた結果といえる。新型コロナウィルスの感染拡大の継続により、海外渡航を伴う現地調査が本年度も叶わず、事例研究の広域化は叶わなかった。しかしその点、上記のとおり研究計画の微修正や順序変更をおこないつつ、学会発表・研究交流や文献解読・論文執筆の作業を進めることができた。以上のことから、本研究を「おおむね順調に進展している」と前向きに評価する。
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今後の研究の推進方策 |
もし可能であれば、当初の計画の中心に軌道を戻し、海外渡航を伴う現地調査を再開することによって、事例研究の拡大や蓄積にとりくむ。と同時に、事例研究に基づき、教育政策形成・決定をめぐる熟議デモクラシーに資する原理的・理論的・社会的・政治的な解明作業も続ける。幅広く柔軟なスタイルによる研究交流や意見交換を介して、学際的な視野を開き広げることによって、政策の規範的仮説として効果検証を要する原理の洗練化に挑む。研究公開として、ひきつづき学会発表や論文投稿等を積極的におこなう。
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