研究課題
若手研究
解析学的な非線形偏微分方程式の解であるエルミート・アインシュタイン計量の存在と代数的な安定性が同値であることが知られており,小林-ヒッチン対応と呼ばれている.解析と代数という,本質的に異なる分野から定まる2つの概念が同値であるという驚くべき定理だが,証明は高度に技術的であることが知られていた.本研究の目標は,これら2つの概念がどのように関係し合うのかを,変分法という解析的手法とQuotスキームという代数的な物体を用いて,幾何学的直観に訴える形で理解することである.
本研究課題のテーマである小林-Hitchin対応はKempf-Ness定理と呼ばれる有限次元の定理の無限次元版とみなせるものであるが,そこでの中心的なアイデアとなっている「汎関数の臨界点の存在と無限遠でのスロープ」の関連について,有限次元の場合は内容自体は広く知られた結果であっても詳細に書かれた証明を文献から見つけることは難しかった.申請者は,この関連について詳細な証明を与えた上で,その証明がlocally compact complete length metric spaceにも拡張できることを示した.この証明と,申請者のこれまでの研究で得た結果の一部のサーベイを合わせて,国際研究集会のプロシーディングにて発表した.さらに,海外の共同研究者と有益な議論を行うことができた.研究期間全体を通して,Hermite-Einstein計量に関しては当初想定していた目標を達成できたと考えている.Higgs束への拡張に関して,結果を出すことができなかったことは悔やまれる点であるが,複数の専門家と今後の研究に有意義な議論を行うことができた上に,本研究課題と深く関連する別の研究問題について進展があったのでそちらの結果を出すことを優先した.そこでの問題には,Fano多様体上のanticanonically balanced計量,coupled Kaehler-Einstein計量に関するDing安定性に関する研究,ランダム小平埋め込みの質量中心,錐的特異点を持つ定スカラー曲率Kaehler計量と安定性,また正則平坦線束に関するHoermander型のL2評価などがある.これらの研究内容にはHermite-Einstein計量や正則ベクトル束以外に関するものも含まれているが,広い意味で標準計量や安定性に関する研究であり本研究課題と密接に関わるものである.
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 15件、 招待講演 27件)
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