研究課題/領域番号 |
19K14702
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小幡 一平 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (50823621)
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研究期間 (年度) |
2021-11-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 宇宙論 / アクシオン / インフレーション / 原始非ガウス性 / 光子(ゲージ場) / 標準模型 / 暗黒物質 / 暗黒エネルギー / 原始重力波 / 重力波干渉計 / 光子(ゲージ場) |
研究開始時の研究の概要 |
アクシオンは未発見の素粒子であり、宇宙初期の加速膨張(インフレーション機構)を引き起こすスカラー場や暗黒物質の候補として考えられている。本研究は、アクシオンが光子(ゲージ場)にもたらす主要な効果であるパリティ対称性の破れを宇宙論的な側面から研究し、アクシオンを将来の実験観測で検証する手段を開拓する。特に、アクシオンに由来する光子のパリティの破れを宇宙物理学の代表的課題である原始重力波観測や暗黒物質実験に結びつけた新たなアプローチを構築する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、未発見の素粒子であるアクシオンが引き起こす光子のパリティ対称性の破れに着目し、宇宙論の枠組みで将来の実験観測から検証を行える手段を開拓することである。以下2つの研究課題に分け、本年度に遂行できた実績を述べる。
(1)CMBを用いたアクシオン探査:Planck/WMAP衛星のデータから得られた宇宙背景放射(CMB)のEB相関(偏光回転効果)は、宇宙のパリティ対称性が大スケールで破れており、アクシオンの様な新物理が背後にある可能性を示唆している。しかし、パリティ対称性を破る相互作用は既知である素粒子標準模型の有効理論の枠内でも考えられるため、新物理を要求する必然性があるかは非自明であった。本年度に私はこの疑問について検証した結果、標準模型の有効理論が予言する偏光回転効果は非常に小さく、現在観測されている偏光回転角を説明できないことを共同研究者らと解明した。この研究成果は論文として発表し、科学雑誌であるJHEPに掲載された。また並行して、SZ効果の偏光に着目したアクシオン探査及びアクシオン位相欠陥の宇宙論的発展に伴う偏光回転効果ついての論文もそれぞれ発表し、こちらも科学雑誌PRDとJCAPに掲載となった。 (2)原始密度揺らぎのパリティ対称性の破れの検証:インフレーション期にアクシオンとゲージ場が結合しているとパリティ対称性の破れた宇宙論的揺らぎを生成する機構が知られている。その物理量としてこれまでは主にテンソル量(重力波)が注目されてきたが、本年度に私はスカラー量(密度揺らぎ)に着目した研究を行った。スカラー量は特別な方向がないためパリティ対称性の破れを見ることが困難だったが、私は共同研究者らと密度揺らぎの高次の相関(4点相関)を見積もり、その特定の形の下ではパリティ対称性の破れが検証可能になることを発見した。この研究成果は論文として発表し、JCAPに掲載される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度に予定していた宇宙初期・後期の研究課題を共に達成することができ、4本の論文を執筆・発表し、学術誌に出版することができた。それに加え、前年度までに発表していたアクシオン暗黒物質探査についての論文(DANCE実験の初期成果、超低質量暗黒物質の確率論的分布が与える観測への影響)2本も無事に科学雑誌(PRD)に掲載された。これらの論文は全て共著であり、そのうち1本は中国(上海交通大学)、1本はポルトガル(コインブラ大学)とスペイン(バルセロナ自治大学)の研究者らとの国際共著論文である。残り4本は学術変革領域研究「ダークマターの正体は何か?広大なディスカバリースペースの網羅的研究」(領域代表者:村山斉 東京大学教授)のレーザー干渉計班(B01、代表:道村唯太 東京大学准教授)とCMB班(B06、代表:小松英一郎 マックスプランク宇宙物理学研究所所長)の研究者らとの共同研究に基づいている。 本年度は3つの研究会(うち、2つは招待講演)に参加し、本課題に関連した研究成果の発表を行った。そして、早稲田大学と高エネルギー加速器研究機構(量子場計測システム国際拠点と理論センター)にセミナー講師として招待され、本課題に関連する研究発表を行った。 また、本年度は研究のネットワークの拡大も行うことができた。招待講演のうち1つは国外(スペイン)で行われ、研究会の世話人であるカンタブリア大学の研究者らと議論を行い、それをきっかけに新たな共同研究を始めることができた。そして、去年に仲間入りを果たしたCMB衛星の将来計画であるLiteBIRDグループにおいて、本研究課題の1つであるCMB偏光の回転効果を専門に解析を行うチームとの議論・研究を行えるようになった。 以上の理由から、進捗状況を当初の計画以上に進展があったと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)アクシオンの非線型成長過程を取り入れたCMB偏光回転効果による理論模型の制限:CMBの等方的な偏光回転効果の多寡はアクシオン背景場のダイナミクスと密接に関係しており、CMB偏光が生成された時代から現在に至るまでにアクシオン場がどのように時間変化してきたのかで特徴づけられる。現在、観測から示唆されているアクシオンの質量帯に着目したこれまでの研究では、アクシオン場が宇宙論的に線形成長すると仮定された解析が主に行われてきた。ただし、そのようなアクシオンの質量帯でも暗黒物質との重力相互作用による非線型成長効果が無視できず、従来の予言と異なる偏光回転効果が導かれる可能性がある。今後は、そのようなアクシオン場の非線型成長過程を取り入れた模型のパラメータ領域の制限を共同研究者らと行う予定である。
(2)CMB偏光回転の非等方成分の観測によるアクシオン模型の制限:一般にアクシオンは一様な背景場の他に空間に依存する揺らぎの成分も持っている。これまで報告されている偏光回転のシグナルは天球上で等方的であるが、このような等方成分の他にアクシオンの揺らぎによって天球方向に依存した非等方成分も予言される。非等方な偏光回転効果は現在までに観測されていないため、アクシオン揺らぎの大きさ(2点相関関数)に上限値がついているが、そのスペクトル形に関してはこれまで角度スケールに依存しない形を仮定した解析が行われてきた。この仮定は必ずしも正しくなく、アクシオンの模型次第では角度スケールに依存した(例えばある角度スケールでピークを持つような)スペクトル形を予言するため、スペクトルの大きさだけではなくそのスケール依存性を特徴づける指数などの模型パラメータも検証することが重要になる。私は共同研究者らと共に、今後のCMB観測でこれらのモデルパラメータがどの程度制限が可能なのかを開拓する予定である。
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