研究課題
若手研究
ブラックホール X 線連星(星質量ブラックホールと恒星の連星系)は、星からブラックホールにガスが落ち込む過程で「降着円盤」と呼ばれるガス円盤を形成し、強い X 線を出して輝く。降着円盤のガスの全てがブラックホールに呑み込まれるわけではなく、その一部は、「円盤風」として秒速数千キロものスピートで円盤に沿って外側に噴き出し、X 線の青方偏移した吸収線として観測される。本研究では、Chandra 衛星や、2022 年頃に打上予定の日本の X 線衛星 XRISM で得られる吸収線データを、円盤風の理論から予測される吸収線の形状と比較することで、円盤風の噴出機構を明らかにする計画である。
(1) ブラックホール X 線連星の円盤風の構造変化の研究仏グルノーブル・アルプ大学で円盤風の研究を行っている M. Parra 氏らとともに、ブラックホールX線連星 4U 1630-472 の過去の全X線データを用いた円盤風の吸収線の共同研究を実施した。この研究では、X線光度や連続スペクトル形状の変化とともに、高電離の鉄の吸収線強度がどのように変化するかを詳細に調査し、質量降着率にともなう円盤風の性質(電離度や柱密度)の変化の仕方を明らかにすることができた。この成果をまとめた論文を現在準備中である。(2) XRISM への貢献XRISM 打ち上げ後の衛星・検出器立ち上げ・基本性能確認期間には、運用管制室での Quick Look データ処理・検出器チームへの即時配布に携わった。また、衛星時刻システムの機能確認・精度評価検証作業も実施し、軌道上の性能評価に貢献した。サイエンス面では、2024 年 2 月の本格観測開始後、ブラックホールX線連星の即時観測を主導し、円盤風からの吸収線データを取得することに成功した。また、国立天文台で行われた SS 433/W50 研究会 (2023年9月)やJAXA 宇宙科学研究所で行われた連星系・変光星研究会(2024年2月)にて、XRISM によりもたらされるX線連星の研究の進展について、既に得られた観測データやシミュレーション結果などもまじえながら講演を行った。さらに、2024年8月以降の公募観測期間にもブラックホールX線連星の観測を行うべく、XRISM 第 1 回国際観測公募に、増光中の円盤風の観測についての提案を提出した。
3: やや遅れている
当初の研究計画では、2022 年度が最終年度としていたが、新型コロナウイルス感染症の影響が2022年度以降も一部残り、国際会議などに参加して国外の研究者に成果報告を行うことがほとんどできなかった。また、2022 年度の予定であった XRISM 衛星の打ち上げが 2023 年度 9 月に延期され、打ち上げ後の衛星立ち上げ・性能確認期間も当初の予定よりも延びたため、本格観測を開始できたのが 2024 年 2 月にずれこんだ。XRISM によるブラックホール X 線連星の観測が 2 月に実施されたが、衛星データの一次処理に時間を要しており、科学解析に使えるデータが未だ配布されておらず、本格的にデータ解析を行えるのは 2024 年度になる見込みである。一方、他の X 線観測装置を用いたブラックホールX線連星の観測や、アーカイブデータを用いた研究は順調に進められている。XRISM ミッションでは、軌道上での性能評価や較正作業に携わっており、サイエンス面のみならず技術面でも貢献してきた。
2024年2月以降、XRISMでブラックホールX線連星の観測データが得られつつあり、科学解析が間もなく可能になる。これらの分光データに見られる吸収線形状を解析し、円盤風の理論モデルからの予測と比較することで、円盤風の噴出メカニズムを明らかにする。その成果をまとめて今年度中に学術誌に論文を投稿し、XRISMチーム会議や国際会議・国内学会で発表を行う。研究費の残額は、論文投稿料や研究会等出席のための出張旅費として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 17件、 査読あり 19件、 オープンアクセス 18件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 5件、 招待講演 9件)
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