研究課題
若手研究
ブラックホール X 線連星(星質量ブラックホールと恒星の連星系)は、星からブラックホールにガスが落ち込む過程で「降着円盤」と呼ばれるガス円盤を形成し、強い X 線を出して輝く。降着円盤のガスの全てがブラックホールに呑み込まれるわけではなく、その一部は、「円盤風」として秒速数千キロものスピートで円盤に沿って外側に噴き出し、X 線の青方偏移した吸収線として観測される。本研究では、Chandra 衛星や、2022 年頃に打上予定の日本の X 線衛星 XRISM で得られる吸収線データを、円盤風の理論から予測される吸収線の形状と比較することで、円盤風の噴出機構を明らかにする計画である。
(1) XRISM への貢献XRISM プロジェクトチームが主催するワークショップ XRISM Core-to-Core Science Workshop に招待講師として参加し、これまでの研究成果のレビューと XRISM を用いたブラックホール X 線連星の精密分光観測で期待される成果について、学生や若手研究者向けの講義を行った。また、昨年度に引き続き、XRISM 科学運用チームのメンバーとして、技術面からもプロジェクト推進に貢献している。今年度は、2022年8月に行われた衛星熱真空試験のデータ処理や、そのデータを利用した衛星本体の中央制御コンピュータと地上システムでのデータ処理における時刻精度の検証に主要メンバーとして携わった。(2) ブラックホール X 線連星の降着円盤の構造の研究円盤風起源の吸収線は、X線光度が比較的高く軟X線が支配的なスペクトルを示す「ソフト状態」では検出されるが、X線光度が低く硬 X 線の割合が大きいべき型のスペクトルを示す「ハード状態」ではほとんど見られなくなる。これらの状態での降着流の構造や、状態遷移が起こる正確なタイミングを理解するため、ブラックホール X 線連星の多波長データを系統的に調べた (Wang et al. 2022, Yoshitake, Shidatsu et al. 2022, Wang et al., submitted)。その結果、降着流の構造変化のX線光度(質量降着率を反映)依存性を明らかにすることができた。この成果を、2023年3月に行われたブラックホールジェット・降着円盤・円盤風研究会などで発表した。
3: やや遅れている
当初の研究計画では、2022 年度が最終年度としていたが、新型コロナウイルス感染症の影響が2022年度も一部残り、国際会議などに参加して国外の研究者に成果報告を行うことができなかった。また、XRISM 衛星の打ち上げが 2022 年度から 2023 年度に延期されたことにより、XRISM によるブラックホール X 線連星の観測はできていない。一方、Swift 衛星や NICER など他のX線観測装置を用いたブラックホールX線連星の観測的研究は進めており、MAXIで新たに発見された X 線連星のフォローアップ観測を実施し、その結果をまとめた論文を出版することができた。また、X線だけでなく、京大せいめい望遠鏡を用いた可視光の分光観測も実施している。XRISM 衛星に関しては、研究成果の概要に述べたとおり、衛星熱真空試験のデータ処理や、衛星時刻精度の検証に携わり、打ち上げに向けて技術面でも貢献してきた。
「現在までの進捗状況」に述べたとおり研究計画に遅れが生じたため、本研究プロジェクトを延長し、今年度(2023年度)を最終年度とする。今年度は、国内の研究会・学会だけでなく国際会議にも参加し、X線連星に関するこれまでの観測成果の発表を行う予定である。また、昨年度までに引き続き、新たな円盤風による吸収線データを取得するため、全天X線監視装置MAXIを用いてブラックホールX線連星の光度変動を監視し、増光が起こった際には、X線衛星を用いた分光観測を実施する。 XRISMプロジェクトにおいては、打ち上げ後に行われる予定のチームメンバ限定の観測、及びその後の公募観測期におけるブラックホールX線連星の観測の計画を共同研究者とともに入念に行う。また、これまでのデータ処理ソフトウェアの開発・検証の経験を生かし、開発打ち上げ後の衛星立ち上げ期の性能確認作業にも携わる予定である。
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すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 14件、 査読あり 16件、 オープンアクセス 15件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 3件、 招待講演 7件)
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