研究課題/領域番号 |
19K15192
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分23040:建築史および意匠関連
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
植田 曉 北海学園大学, 工学部, 客員研究員 (40828779)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | イタリア / トスカーナ / テリトーリオ / 文化的景観 / パエサッジョ / 農業地域 / テッスート / ポデーレ / 建築類型学 / 都市形態学 |
研究開始時の研究の概要 |
イタリアでは「テリトーリオ=地域」と呼ぶ定住環境を、ひとつの広域な歴史的地域資源として1990年代より再評価してきた。わが国では、その一部である農業地域の景観を分析し整える方法の確立が急務な課題と考える。 本研究の対象をトスカーナ州シエナ県の世界遺産である文化的景観「オルチア渓谷」として、1.複数異種の景観構成要素から農業地域の景観の単位空間を類型化し、2.テリトーリオ全域の特徴を1の単位空間が有機的に集合した「テッスート=組織」として読み、3.以上1・2の研究に基づく景観分析の汎用的な方法論を導くことを目的とする。
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研究実績の概要 |
トスカーナ州シエナ県南部に位置するユネスコの世界遺産「オルチア渓谷」を対象に、建造物の類型学と都市形態学という2つの分析手法を応用し、農業地域の景観(パエサッジョ)の全体像を捉える分析手法の汎用性に関する検証を、本研究の目的としている。これまでに本研究は、A.研究課題である景観分析手法の検証、B.研究調書提出後に開催を決めた中世の都市条例に関する研究会、本研究に基づく3つの実績としてC.講座をはじめとした普及活動(2020年以降)、D.書籍出版(共著本の第一著者)、E.著作Dの周知と評価の収集、に発展した。Dを第一段階の成果として、Aを次の段階へ推進することと並行して、Dを教材としてCを実践、Eを継続し、新たな展開を見た。BとDは完了した。 Aの実績:2022年度後半に着手した「オルチア渓谷のテリトーリオ全域の歴史的景観の特性」の検討(研究調書第2段階(④))は、景観分析の方法論としてDの内容から精度をより上げるため、本年度を通して現地のフィールド調査(2019年)で取得した写真資料、収集した文献、地図、絵画資料を元に、①複数の隣接するポデーレ(農場)によるテッスート、②歴史的な市街地周囲の農地によるテッスート、①②の各テッスートとオルチャ渓谷全体の地形断面(研究調書第2段階(④)、2022年度実施状況報告7)を複合したモデル的な景観断面の粗形図を形成した。この作業を経て、さらに2つの新たなモデルを描く可能性を見出した。 Cの実績:Dの成果により、生涯学習を市と協働するNPO法人、まちづくり講座主催者、建築学科の自主ゼミ、県建築士会、県建築士事務所協会の5団体から講座の要請を受けた。また、まちづくりグループに知見を供与し、実施の実績は計6回を数えた。 Eの実績:Dに関する前年度に続く個人的な感想や上記Cの実績に加え、日本建築学会より2024年度著作賞に内定した旨の連絡を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度(2022年度)の実施報告書の推進方策で想定した欧州への渡航条件は好転しなかったため、さらに1年の延長を申請した。ここで得られた時間を好機ととらえ、研究課題(A)の精度の向上を図ることとした。 Aの進捗:本年度は3段階のスケールの区分を明確化した。最小のスケール1:対象地域の6割以上の面積を占め、軒数が多いポデーレ(農場)を事例として「真正性と歴史的重層性の面から複数異種の景観構成要素を抽出」した「一回り大きな景観構成要素」(研究調書1(2)b、2020年度実施状況報告7c)の創出、スケール2:ポデーレが集合したテッスート(農業地域の組織)および歴史的市街地と周囲の農地というテッスート(歴史的な市街地とその周囲の組織)、スケール3:オルチャ渓谷を横断する地形断面、である。スケール1、2とスケール3を複合し、建造物、農作物、樹林といった分類の異なる類型を併記することによって、景観の断面のモデル的な粗形図と指標の素案をつくりえたことから、本研究の目的はほぼ達成できたと考える。この作業を通じて、スケール2とスケール3の中間的なスケールに当たる、都市と農地と森からなる自給自足の定住環境という、中世の時代に形成された最小限のテリトーリオのモデルを、さらに広く捉えた2つの仮説を新たに見出した。 Cの進捗:計6回の普及活動の実績は、Dの著作が評価されたが故と理解できる。これらの実施に際し、対象となる聴衆の違いに応じた発表資料を準備した。それらの内容は文化的景観の読解から、地元のDMO(観光地域づくり法人)の取り組み、さらに歴史的景観を活かした地域再生のメカニズムまで、多岐に渡った。これらの普及活動では、本研究で対象とする精度の高い景観の分析が基本にあることを必ず伝達し、本研究の普及啓発の機会として活用した。日本建築学会2024年度著作賞に内定したことも、今後の啓発に貢献すると考える。
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今後の研究の推進方策 |
景観断面の粗形図と指標の素案に到達したので、今後は以下の順序でAを推進することを考えている。景観断面の精度を高める前に、新たに見出した2つの仮説を、これまでに採集した資料に基づく仮定的なモデルとして構築し、上記の景観断面に反映する。その仮説とは、仮説(1):近接するふたつの歴史的市街地と周囲の農地というテッスートを連結させた、ひとまわり大きなテッスートをモデル化すること、仮説(2):複数のポデーレの所有者が居住する歴史的市街地と農業地域に立地するこれらのポデーレの関係から導くテッスートをモデル化すること、以上の2つの視点である。Dの著作において仮説(1)は未発表、仮説(2)は若干の言及に留まるため、より詳細に考察したうえで報告したい。よってこれら2つのモデルを形成した暁には、これらをスケール3、景観断面をスケール4として整理していく。 現地におけるフィールド調査は上記の目処を立てた上で実践したい。したがってこのフィールド調査は、「比較的新しい農地」(研究調書1-(3)-3)、今後の研究の推進方策2022年度)の補足撮影に加え、新しい仮説も含めて各スケールを検証する位置付けであることにも留意する。さらに検証の一環として、本研究で抽出した特徴を浮き彫りにするため、周辺地域の農業景観との比較をおこなう。また渡航時には検証の対象としている景観分析手法の考案者であるファリーニ教授と意見交換した上で、同教授のモデルと比較(研究調書第3段階(⑤))検討しつつ精度を上げ、建造物の類型学と都市形態学という2つの分析手法を景観分析に応用する有用性を立証する。 現地に渡航する際には移動時間が増加するものの、航空運賃の面から南回りヨーロッパ線を採用することを考えている。ただし世情としては、ロシアによるウクライナ侵攻に加え、中東情勢も悪化しているため、航空会社の選定を柔軟に考えて渡航の機会を注視したい。
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