研究課題/領域番号 |
19K15525
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
三橋 了爾 金沢大学, GS教育系, 助教 (60756667)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 単イオン磁石 / 分子間水素結合 / 磁気緩和ダイナミクス / 水素結合ネットワーク / コバルト(II)錯体 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、水素結合ドナーおよびアクセプターを有する二座配位子を用いた四面体型コバルト(II)錯体を合成し、その水素結合ネットワーク構造と静的および動的な磁気的性質を明らかにする。そして、四面体型コバルト(II)錯体の磁気緩和挙動への分子間の磁気的相互作用の影響を解明する。本研究によって得られる成果は、単分子磁石化合物の磁気緩和挙動を制御し、実用可能な単分子磁石化合物の開発に寄与すると期待される。
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研究実績の概要 |
本研究では、ナノサイズ磁石である単分子磁石化合物における分子間相互作用の磁気緩和ダイナミクスへの影響を解明することを目的としている。単分子磁石化合物は、次世代の高密度記録素子や量子情報処理への応用が期待されているが、ゼロ磁場下では磁化の量子トンネリング(QTM)によって迅速な磁気緩和がおこるために、磁気情報を保存できない。申請者は、単分子磁石化合物に分子間相互作用を導入することで量子トンネリングの抑制に取り組む。 前年度までは四面体構造を有するN2O2型およびO2X2型コバルト錯体(X=Cl, Br, I)における結晶中の一次元水素結合ネットワークと単分子磁石挙動の相関について報告してきた。その結果、水素結合ネットワークにおける最近接錯体間距離が0.6 nm程度の場合、分子間の磁気的相互作用によりQTMが効果的に抑制される一方で、0.85 nm以上の場合はQTMが抑制されないことが明らかになった。しかし、最近接距離が0.6 nm程度の場合でも、錯体ごとにQTMの抑制具合にバラツキが観られた。そこで2022年度は、分子構造が近く、N2O2型コバルト(II)錯体を新たに合成し、一次元ネットワーク内の分子配置が、単分子磁石挙動へ与える影響の詳細について検討した。一次元ネットワーク内の両隣の錯体と等距離で水素結合する場合、隣接錯体からの磁気的摂動が一部相殺されるため部分的にQTMの抑制が観られた。一方、両隣の錯体との距離が0.6 nm程度かつ非等価の場合、錯体間距離の差によって磁気緩和挙動が大きく変化した。錯体感距離の差が0.02 nm以上の場合、QTMは完全に抑制された。しかし、その差が0.01 nm程度の場合、QTMの影響が残ることがわかった。以上のように、本年度はQTMを完全に抑制した単分子磁石の設計における重要な指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目指す単分子磁石化合物における水素結合相互作用の磁気緩和ダイナミクスへの影響を解明するためには、水素結合ネットワークを形成する様々な化合物における磁気緩和挙動を検証する必要がある。2022年度までに、水素結合ネットワーク構造を形成するN2O2型コバルト(II)錯体を5種、O2X2型コバルト錯体(X=Cl, Br, I)を3種合成し、その磁気緩和挙動を比較してきた。その結果、ゼロ磁場下において磁化の量子トンネリングを抑制するためには、(1) 単分子磁石となる錯体を水素結合相互作用によって1次元に配列させる、(2) 水素結合鎖内の錯体間距離を約0.6 nmに近づける、(3) 水素結合内の両隣の錯体間距離を非対称にすることが重要であることが明らかになった。さらに、量子トンネリングを完全に抑制するために必要な水素結合鎖内の両隣の錯体間距離の差の指標を得ることに成功した。以上のように、研究計画当初に想定していた検討内容でのほとんどを遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までは、単分子磁石化合物における水素結合相互作用の磁気緩和ダイナミクスへの影響を解明するために類似の四面体型コバルト(II)錯体を多数合成し、その水素結合ネットワーク構造と磁気緩和挙動の関係を調査してきた。その結果、単分子磁石において量子トンネリングを効果的に抑制するための重要な知見を得ることができた。しかし、これまでに比較してきた錯体は類似構造ではあるものの厳密には異なる配位子を用いており、静的な磁気的性質が異なるため単分子磁石挙動を直接比較することはできない。そこで、本年度はほぼ同一の金属錯体を用いて異なる水素結合ネットワークを有する複数の結晶を作成し、同一の静的な磁気的性質を示す結晶における動的な磁気的性質を直接比較する。そして、単分子磁石化合物の磁気緩和挙動に対する水素結合相互作用の影響を明らかにしていく。
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