研究実績の概要 |
ファルカチンAは特徴的なデカヒドロベンズ[f]アズレン骨格をもち、GIRKチャネル選択的な阻害作用をもつ新規抗不整脈薬のリードである。本研究ではこのファルカチンAを基盤とした創薬研究を目的とし、誘導体化を指向したファルカチンAの全合成経路確立について検討を行った。 まず初めにアレン及びエニン部をもつマロン酸誘導体をマロン酸ジエチルから数工程で合成し、Pauson-Khand反応による5員環-7員環の構築を行った。所望のビシクロ体を得たが、収率に課題を残す結果となったため、合成経路を変更し、7員環部の構築を合成終盤にピナコールカップリングを用いて行うこととした。また、この合成経路でファルカチンAを合成するには(1R,3S,4R,5S)-1,3,4,5-テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸が必要であったが、そのエナンチオマーであるキナ酸の入手が容易であることから、研究の初期段階ではent-ファルカチンAを用いて合成経路を確立することとした。キナ酸から数工程で得られるプロピリデン化された4,5-ジヒドロ-2-シクロへキセノンに対し2位のヨウ素化、水素化ナトリウムと塩化セリウムを用いた還元によりトリオール誘導体とした。得られたトリオールに対しクロスカップリング反応ののち、無保護アルコールの酸化、1,4-付加によるアルケニル基の導入を経て2位をアルキル化、3位をアルケニル化したエノンを得た。次に得られたエノンの2位をSc(OTf)3とホルムアルデヒドを用いたヒドロキシメチル化を含む数工程を経て5員環部を持たないモデル基質を用いて7員環構築の検討したが、所望の化合物は得られなかった。当初予定していた合成経路は断念したものの、新たな合成経路の立案を可能とする知見が得られた。
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