研究課題/領域番号 |
19K15974
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
山崎 朗子 岩手大学, 農学部, 准教授 (30648358)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 住肉胞子虫 / ジビエ / 食中毒 / ニホンジカ / 毒性タンパク質 / Sarcocystis / 野生ニホンジカ / 腸管毒性 |
研究開始時の研究の概要 |
住肉胞子虫Sarcocytsis sp.は、馬刺しの食中毒事例により新規の食中毒病原体と認定され、近年ではシカ肉でも同様の食中毒を起こした。しかしその毒性因子、機序、種特異性は不明である。本研究では、野生ニホンジカに寄生するSarcocytsis sp.のヒトに対する腸管毒性因子と種間毒性の相違を解明する。国内の野生ニホンジカ亜種からSarcocytsis sp.虫体を分離し、分子量依存的に分画した虫体タンパク質を用いてin vitro、in vivo実験を行い、毒性因子を同定する。さらに、当該標的タンパク質について、Sarcocytsis種の違いに起因する毒性の相違を検討する。
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研究実績の概要 |
近年、野生シカの食肉利用が期待されているが、住肉胞子虫(Genus Sarcocysits)の有症事例が報告されており、ヒトに対する腸管毒性の解明が急がれている。本研究ではin vivo試験を用いてニホンジカに寄生する住肉胞子虫の腸管毒性の実証を試みた。 キュウシュウジカの骨格筋から住肉胞子虫のシストを単離し、リン酸緩衝液(PBS)内にてブラディゾイトを遊離させた。ICRマウスの回腸ループに平均5×106個のブラディゾイトを投与した。陰性対照にはPBS、陽性対照には組換えウェルシュ菌エンテロトキシン25 ugを投与した。18時間後に安楽殺の後開腹し、F/A値(ループ内液体貯留量(g)/ループ長(㎝))を用いて下痢毒性を評価した。ブラディゾイトからゲノムDNAを抽出し、18S rRNA、cox1の塩基配列解析によって種同定を行った。また、ブラディゾイト由来の抽出タンパク質について、ウェスタンブロッティング法にてS. fayeri毒性候補因子15 kDaタンパク質(ADF)の検出を試みた。その結果、ブラディゾイトを投与したループは、有意なループ内液体貯留を示した(F/A値 0.12)。陽性対照、陰性対照のF/A値は0.05、0.03であった。実体顕微鏡によるループ内膜の観察では出血・充血は認められなかった。遺伝子解析の結果、本研究で用いた住肉胞子虫はSarcocystis. sp. HM050662およびS. japonicaと相同性が高かった。ウェスタンブロッティングの結果、この2種の住肉胞子虫由来のタンパク質から15 kDaタンパク質ADFが検出された。以上のことからS. japonicaとSarcocysits sp. HM050622がマウス回腸ループに液体貯留を起こすことが確認されたことから、シカに寄生する住肉胞子虫がヒトに腸管症状を引き起こす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
馬に寄生するSarcocystis fayeri以外の種の毒性を確認するため、長崎県産のキュウシュウジカから分離したSarcocystisを用いてマウス腸管ループ試験を行ったところ、液体貯留が認められた。試験に用いたブラディゾイト数はS. fayeriと比較すると100倍以上異なり、液体貯留の様相は、出血性の液体貯留を認めたS. fayeriの腸管ループ試験に対して、出血の無い液体貯留だった。種同定の結果、S. japonicaであることが確認できた。また、毒性候補とされている15kDaタンパク質が保有されていることも確認できたが、同一のタンパク質が起こした腸管内の液体貯留に仕手は様相が大きく異なることから、研究計画書では重点を置いていなかった、種による毒性の違いから派生した、毒性候補因子の再検討が必要となる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究にて毒性を示したタンパク分画を選出する。虫体タンパク質をSDS-PAGE、NATIVE-PAGEにて分画し、毒性をしめす分画に含まれるタンパク質を確認する。ゲルから目的タンパク質を抽出し、Mass Spectrometer にてアミノ酸配列を決定し、BLAST検索によりタンパク質を同定する。ここで決定されたアミノ酸配列をもとに、pHAT10ベクターを用いた大腸菌発現系にて組換タンパク質を合成する。このタンパク質を用いて、同様に腸管ループ試験を行ない、毒性候補因子タンパク質の毒性確認および再現する。更に、同タンパク質を用いて細胞毒性の確認を行う。腸管上皮に近いCaCo-2細胞を用いて刺激実験を行う。直接的細胞傷害性としては、CaCo-2腸管上皮モデル細胞を単層化した透過性膜フィルターを細胞培養ウェルプレートに設置した後、組換えタンパク質で刺激する。24時間後、増殖/生存(MMT)アッセイ法にて細胞傷害性を、経上皮電気抵抗(TEER)アッセイにてCaCo-2細胞間タイトジャンクションへの傷害性を測定する。間接的細胞傷害性として、透過性膜フィルター上にU937マクロファージ系細胞を培養し、CaCo-2細胞を接種した培養プレートに設置する。組換えタンパク質でU937細胞を刺激し、24時間後Caco-2細胞の細胞診と細胞傷害性アッセイを行なう。また、U937細胞刺激培養上清中の産生サイトカインをサイトカインアレイにて網羅的に検出し、優勢サイトカインから誘起された細胞応答を考察する。実験結果から、生体、細胞に毒性を示す毒性候補タンパク質を特定する。
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