研究課題/領域番号 |
19K16280
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分46020:神経形態学関連
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研究機関 | 生理学研究所 (2021-2022) 東邦大学 (2019) |
研究代表者 |
石原 義久 生理学研究所, 脳機能計測・支援センター, 特任助教 (30802532)
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研究期間 (年度) |
2021-03-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 海馬台 / 海馬 / 記憶 / 情動 / 免疫組織化学 / 神経結合 / 電気生理学 / 行動実験 / 空間記憶 / 情動記憶 / 膨大部後皮質 / 注入実験 / DAAD / 神経結合研究 |
研究開始時の研究の概要 |
記憶の形成と忘却の神経基盤として知られる海馬体は、歯状回・海馬・海馬台(subiculum)から成り、齧歯類の場合、背側が空間記憶、腹側が情動記憶の形成に関与する。空間記憶に関しては飛躍的に解明が進みつつあるが、情動記憶の解明は十分とは言えない。 申請者が免疫染色により新たに定義したマウスおよびラットの腹側海馬台近位部の情動記憶回路網を詳細に探求することで、腹側海馬台の近位部が情動記憶の成立基盤であるという仮説を検証する。マウスおよびラットの情動記憶はヒトのエピソード記憶と比較され、共通する側面も有することから、その神経基盤の解明は、ヒトの記憶学習と認知症病態の理解促進に寄与すると考えられる。
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研究実績の概要 |
代表者は、これまで海馬台(subiculum)の神経解剖学的解析を行なってきた。海馬台は学習や記憶形成に関わると共に、認知症やてんかんの発生源でもある海馬体の情報の出力部に当たる重要な脳部位であるが、その形態の曖昧さ・複雑さから他の海馬体領域に比べて研究が遅れてきた。そこで、免疫組織化学的方法を用いて海馬台の細胞構築を分析した結果、海馬台が海馬台遠位部(Sub1)と近位部(Sub2)に明瞭に区分でき、各サブ領域が複数の層構造を示すことが明らかになり、Sub1/Sub2の割合の変化をマウスおよびラットの海馬台の背側-腹側方向において確認してきた。 その後、海馬台の各領域の投射関係および機能的意義を明らかにすべく、熊本大学(福田孝一ラボ)並びにベルリン・シャリテ医科大学(Prof. Dr. Imre Vidaラボ)との共同研究を推進し、Sub1・Sub2のコネクション関係と電気生理学的特性を探求し、複数の成果を得た。一例を挙げると、Sub2から情動に関係の深い側坐核や中隔核への密な投射が確認され、それらの領域への投射ニューロンが腹側のSub2に集中していることが明らかになった。なお、成果については、日本解剖学会および日本神経科学学会の学術大会にて発表した。 2022年からは、生理学研究所(窪田芳之ラボ)へと移籍し、運動野のニューロンの棘突起解析を開始した。現在、cranial window手術を施した遺伝子改変マウスに運動学習をさせつつ、スパインの動態を2光子顕微鏡で観察している。このプロジェクトに関しては、CREST細胞内ダイナミクスの領域会議にオブザーバー参加した。運動学習が上達するためには、成功/失敗に伴う情動経験の蓄積が必要であり、報酬系とコネクションを持つSub2が関係している可能性が高い。そこで、運動学習中のマウスを用いて、運動野と同時に海馬台の解析も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
記憶の形成と忘却の神経基盤として知られる海馬体は、歯状回・海馬・海馬台から成り、齧歯類の場合、背側が空間記憶、腹側が情動記憶の形成に関与する。空間記憶に関しては、空間細胞等の発見により飛躍的に解明が進みつつあるが、情動記憶の形成過程は未だに解決すべき多くの謎を残している。 代表者は既に、免疫組織化学的手法により、腹側海馬台の遠位部(Sub1)と近位部(Sub2)が全く異なるタンパク質の局在を示し、PCP4陽性・NOS陽性の錐体細胞とVGluT2陽性・ZnT3陽性の軸索終末がSub2に集中して観察されることをマウス(Ishihara and Fukuda, Neuroscience, 2016)およびラット(Ishihara et al., Neurosci Res, 2020)において明らかにしてきたが、それに加え、熊本大での研究により、Sub1の錐体細胞の大部分がFN1陽性であること、腹側Sub2にはPVニューロンの軸索が集中してSub1と明瞭な境界を形成していることを確かめた。この境界は、シャリテ医科大における電気生理学的実験においても確認することができた。また、海馬台におけるVIPインターニューロンの局在と形態、および機能を解明する研究を台湾・国立陽明交通大学のCheng-Chang Lienラボと共同で進めている。 海馬台の錐体細胞全体の形態を観察するために、シャリテ医科大にて個々のニューロンへのbiocytin注入実験を行なったが、熟練した技術を要する上に、時間がかかり、少数の細胞しか可視化できないという難点があった。しかしながら、現在、生理研で使用している遺伝子改変マウスは、錐体細胞全体をGFPで可視化できるだけでなく、GFP+錐体細胞がSub2に集中して分布することが偶然確かめられた。すなわち、本研究にとって最適な遺伝子改変マウスを手に入れることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず取り組みたいのは、研究成果の論文発表である。現在、熊本大およびシャリテ医科大との共同研究の成果をまとめた論文の草稿が完成し、共同執筆者と調整を行なっている。これをなるべく早い時期に出版することが第一目標である。 次に、生理研にて期せずして獲得した、海馬台近位部特異的に錐体細胞を可視化する遺伝子改変マウスを用いた研究を推進していきたい。成体マウスのSub2における錐体細胞の形態を観察するだけでなく、誕生直後から成体に至るまでの脳スライスを作成し観察することで、Sub2錐体細胞の発生形態を解析したい。また、PV、calretinin、VIP、somatostatin等と多重免疫染色することで、Sub2錐体細胞とインターニューロン間のマイクロサーキットの構造を明らかにしたい。さらに、Sub2錐体細胞の長距離投射を明らかにするために、複数の脳領域(とりわけ、情動に関連する側坐核、中隔核、偏桃体)に逆行性トレーサーを注入する実験を実施していきたい。この注入実験に関しては、既に熊本大(福田孝一ラボ)との共同研究を模索中である。 それらの実験に加え、生理研では、運動学習と組み合わせた実験を行なっていきたい。運動学習直後のマウス脳を灌流固定し、海馬台のスライスをc-Fos染色するなど、海馬台の機能解明につながる実験を計画し、実行していきたいと考えている。運動野と海馬台の機能連関を本格的に確かめるためには、両者のコネクションを明らかにすると共に、運動野と海馬台の電気生理学的活動の同時計測も必要になってくる。こうした方向に本研究を発展させるための基盤作りも進めていきたい。
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