研究課題
若手研究
近年、腫瘍のエピゲノム修飾の異常を制御することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤(以下エピゲノム薬)が次世代の抗がん剤として注目されている。本研究では、肝癌における細胞環境とエピゲノム薬との相互作用に焦点をあて、エピゲノム薬の効果を増強または阻害する細胞環境の分子基盤を解明し、新たな治療法の開発を目的とする。具体的には、1)エピゲノム修飾酵素阻害薬、2)肝発癌に関連する環境誘導因子を準備し、1)2)の組み合わせを網羅的に探索し、肝癌細胞における相互作用を詳細に解析する。臨床に還元可能なレベルでの研究体系を構築し、最終的には肝癌の治療成績の向上を目指す。
分子標的治療薬ソラフェニブ(SFN) 耐性肝癌細胞株の解析により、細胞内エネルギーレベルの低下、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ/プロテインキナーゼB経路の代償性活性化、プリン代謝のde novo経路の抑制、salvage経路の活性化を見出した。さらにSFN耐性肝癌細胞株はSFN再投与に反応して脂質代謝に関わる転写因子の発現が上昇していることを見出した。43種類のエピゲノム修飾阻害薬と8種類のシグナル標的阻害薬を用いて薬剤スクリーニングを行い、耐性株に対して増殖抑制効果を示す4種類の候補薬剤を同定した。本成果は分子標的治療薬に抵抗性を示す肝癌に対する新しい治療薬の開発につながり得る。
SFNは進行肝細胞癌に対する標準的治療のひとつで、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の禁忌症例やC型肝炎ウイルス陽性症例においては有益であり、長期投与可能な症例も多い。一方でSFN治療耐性における細胞生物学的機序はよくわかっていない。本研究の結果は、SREBP-1cの機能阻害とSIRT2阻害はSFN耐性肝癌に効果的な可能性を示唆している。またメタボローム解析により見出されたプリン代謝salvage経路の活性化は将来的に新しい治療標的となり得る。以上より、本成果は分子標的治療薬に抵抗性を示す肝癌に対する新しい治療薬の開発につながり得るため、潜在的な社会的意義がある成果であったと考える。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 5件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 6件) 図書 (1件)
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