研究課題
若手研究
本研究では,「白血球・免疫細胞におけるATRAP発現調節異常が,生活習慣病関連臓器障害の発症・進展に関与し,白血球・免疫細胞でのATRAP(AT1 receptor-associated protein) の発現レベルの制御により生活習慣病関連臓器障害を改善できる」との仮説を検証するため,生活習慣病モデル動物,組織ATRAP発現制御動物およびヒト血液検体などを用いて,生活習慣病関連臓器障害の発症・進展における白血球・免疫細胞でのATRAPの病態生理学的意義を生体レベルで明らかにし,ATRAPに着目した新規分子標的治療開発に向けた多面的な基礎的知見を得ることを目指す.
全身性ATRAPノックアウトマウスを用いて,ストレプトゾトシン誘発性糖尿病マウスを作製したところ,野生型糖尿病マウスに比べて,尿細管間質マクロファージの極性変化(M1マクロファージの増加、M2マクロファージの減少)とともに糖尿病性糸球体障害の増悪を認めた。一方,野生型マウスおよび全身性ATRAPノックアウトマウス骨髄由来細胞のM2マクロファージへの分化能は同等であった。さらに,全身性ATRAPノックアウト糖尿病マウスに,野生型および全身性ATRAPノックアウトマウス骨髄由来M2マクロファージを養子移植したところ,糖尿病性糸球体障害の改善を認めた。
糖尿病性腎症に対するレニン-アンジオテンシン(RA)系阻害の腎保護効果の新たなメカニズムとして,腎尿細管RA系の過剰な活性化が,マクロファージの極性変化を介して糸球体障害を増悪させるという腎尿細管-マクロファージー糸球体連関の存在を新たに示した。糖尿病性腎症において既存薬によるRA系の過度な抑制は,むしろ副作用が増えることことが報告されているため,RA系の生理的シグナルには悪影響を与えずに,臓器障害と関連したシグナルのみ選択的に抑制できるATRAP-M2マクロファージ軸が,糖尿病性腎症の新たな治療標的となる可能性がある。
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