研究課題
若手研究
PD-1抗体治療において治療効果を予測するバイオマーカーを確立すること、PD-1抗体に対する不応答性の機序を解明することが喫緊の課題である。我々が少数例のヒト肺がん末梢血検体を用いて予備検討を行ったところ、PD-1抗体の治療効果と、T細胞のエネルギー代謝状況および血中腸内細菌関連代謝産物に関連性が示唆された。本研究では、症例数を増やしてT細胞のエネルギー代謝と代謝産物に注目したPD-1抗体の治療効果予測バイオマーカーの確立を目指す。また、腸内細菌関連代謝産物や腸内細菌の状態がT細胞へ与える影響を調べることで、T細胞の免疫代謝と腸内細菌のクロストークのメカニズムを明らかにする。
PD-1 抗体で治療を行う肺がん患者計60 名から治療前後のタイミングで血液を採取し、血漿と免疫細胞を単離し、代謝産物とリンパ球マーカーの評価を行い、治療効果との相関を調べた。血中エネルギー代謝関連の代謝産物が低いことや血中腸内細菌関連代謝産物が高いことなどが、PD-1 抗体の治療効果と相関した。しかし1 つずつの代謝産物での予測率は最高でAUC 0.82(治療後の馬尿酸)と十分に高いとはいえなかったため、統計学的手法を用いて複数の測定項目の組み合わせによるバイオマーカーの確立を期した。その結果、治療前の馬尿酸(腸内細菌関連代謝産物)、PD-1 抗体治療後のシスチンとGSSG(レドックス関連代謝産物)、ブチリルカルニチン(ミトコンドリア関連代謝産物)を組みわせることでAUC 0.91 の予測率を達成できた。リンパ球マーカーに対しても、代謝産物と同様の解析を行った。投与前のPD-1high CD8+ T 細胞の割合(疲弊T細胞を反映)とCD8+T 細胞ミトコンドリア活性酸素種、治療前後のCD4+T 細胞の変化率とCD8+T 細胞のPGC-1(ミトコンドリアのキーレギュレーター) の変化率を組みわせることでAUC 0.96 と非常に高い予測率を達成できた。なお、新たにPD-1 抗体で治療を行う肺がん患者計30名から同様に血液を採取し、上記の組み合わせバイオマーカーでPD-1抗体の治療効果を予測できる事も確認した。本研究内容は論文発表(Hatae et al. JCI insight 2020)と、第78 回日本癌学会や第23 回日本がん免疫学会総会、第17回日本臨床腫瘍学会学術集会で発表を行い、各種メディアでも取り上げられた。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
JCI insight
巻: 5 号: 2 ページ: 133501-133501
10.1172/jci.insight.133501
120006784459
Int J Clin Oncol.
巻: in press 号: 5 ページ: 790-800
10.1007/s10147-019-01588-7
120006850280
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/documents/200130_1/01.pdf