研究課題
若手研究
糖尿病はインスリンの絶対的あるいは相対的分泌不全による慢性の高血糖が様々な合併症を引き起こす代謝疾患である。我々の研究室では、唯一のインスリン分泌臓器である膵β細胞におけるオートファジーの重要性ついて報告してきた。今回、β細胞特異的かつ任意の時期にオートファジー不全を誘導する遺伝子改変マウスを作製し、短期のオートファジー不全はβ細胞機能に影響を与えず、長期化して初めてインスリン分泌不全に至ることを見出した。本プロジェクトでは同マウスの膵島を用いてトランスクリプトーム解析を行うことにより、オートファジー不全がβ細胞機能不全を引き起こす分子メカニズムを明らかにする。
オートファジーは蛋白分解機構の一つであり、生体の恒常性維持に重要な役割を担っている。以前我々は胎生期から膵β細胞でオートファジーを欠失させたマウスでは、耐糖能異常が誘導されることを報告したが、その背景にある分子機構は不明であった。 そこで、本研究ではβ細胞特異的かつ時期特異的にオートファジー不全を誘導するための新規遺伝子改変マウス(iβAtg7KO)を作製した。2週間オートファジー 不全を誘導したマウス(iβAtg7KO-2W)では、耐糖能は対照同胞マウスと同等であったが、6週間オートファジー不全を誘導したマウス(iβAtg7KO-6W)ではインス リン分泌不全を伴う高血糖を認めた。これらの知見はオートファジー不全の蓄積がβ細胞不全を引き起こすことを示している。次に、iβAtg7KO-2W, iβAtg7KO-6W、および対照マウスの膵島を単離し、RNA sequencingを行なった。オートファジー不全は誘導されているが、耐糖能は正常であるiβAtg7KO-2Wにおける遺伝子発現プロファイルを解析し、最も発現変化の大きいSprr1aに注目し解析を行なった。βTC3、INS-1といったβ細胞株においてAtg7の発現をknockdownすると、いずれの細胞株でもSprr1aの発現が亢進していた。またINS-1細胞において、Atg7 のknockdownと同時にSprr1aをknockdownすると、対照群 (Atg7単独をknockdown)に比較してAtg7, Sprr1aの両方をknockdownした細胞では、細胞数が有意に減少することが確認された。以上の結果を踏まえ、Sprr1aがin vivoにおいてもオートファジー不全下のβ細胞で細胞保護的な役割を果たしている可能性を考えfloxed Sprr1aマウスを作出し、現在iβAtg7KOマウスとの交配を進めている。
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