研究課題/領域番号 |
19K19078
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分57040:口腔再生医学および歯科医用工学関連
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
斉藤 まり 鶴見大学, 歯学部, 助教 (60739332)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 歯科インプラント / オッセオインテグレーション / 骨ハイドロキシアパタイト / セリア系ジルコニア/アルミナ複合体 / 結晶相同定 / 骨芽細胞 / 細胞接着 / チタン / セリア系ジルコニア / アルミナ複合体 / 透過電子顕微鏡 / 骨類似ハイドロキシアパタイト |
研究開始時の研究の概要 |
歯科インプラント材のチタンには金属アレルギー等の問題があることから、セラミックスの一種であるセリア系ジルコニア/アルミナ複合体に着目し、新規歯科インプラント材として優れた性能を持つことを本研究にて証明する。 ①生化学的解析(細胞接着因子や細胞分化度を、遺伝子・タンパクから測定する) ②結晶学的解析(骨類似ハイドロキシアパタイト結晶が析出したことを、析出物に対するマクロ・ミクロ評価にて証明する) ③接着機構の解析(析出した結晶と複合材の接着機構をナノレベルで詳細に解析する) ④オッセオインテグレーション性能評価(生体内での骨接着能力を動物実験により評価する)
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研究実績の概要 |
本研究では「セリア系ジルコニア・アルミナ複合体(Ce-TZP)が、歯科インプラント材に必須のオッセオインテグレーション能を有する」ことを、分子レベルで証明する。 これまでに以下の成果を得た。1)細胞産生アパタイトとCe-TZPが分子レベルで直接結合することを発見し、ジルコニアが生体活性とオッセオインテグレーション能をもつことを証明し、国際論文として発表した。2)現行のインプラントは歯槽骨と直接接合するため、骨折やインプラント破折のリスクがあることから、インプラント周囲への歯根膜とセメント質の誘導の必要性を提唱し、国際論文として発表した。 本年度は、Ce-TZPのオッセオインテグレーション能に関わる過去の研究から問題点と解決法を示し、課題研究を通じて得た知見の意義を議論した。これらは歯科臨床にとって極めて重要な情報であり、論文として投稿中である。 <要約> i)オッセオインテグレーションの指標として、骨とインプラントのマクロな接合状態の観察が行われている。報告者は更に、結晶同士のミクロな結合状態がオッセオインテグレーションの強度に反映されることを発見した。ii) 細胞を用いるin vitro研究でオッセオインテグレーションを議論する際には、細胞産生アパタイトが骨アパタイトに類似していなければならない。これまで曖昧であった細胞産生骨類似アパタイトの定義を、結晶形態及び化学組成の観点から厳密化した。iii)アパタイトとジルコニアの結晶構造シミュレーションから、分子レベルでのオッセオインテグレーション状態を視覚化した。iv)ジルコニアへの過剰な表面改質操作は、単斜晶への相転移を誘発し、骨アパタイトとの強固な結合を妨げることを示した。これは、ジルコニア系インプラント材料のオッセオインテグレーション能に必須と信じられてきた表面改質操作に対し、警鐘を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の主目的である、Ce-TZPがもつオッセオインテグレーション能を確定する実験結果を得た。1)細胞産生アパタイトとCe-TZP中のジルコニア結晶が分子レベルで直接結合していることをTEMで観察し、ジルコニアが従来の常識に反して生体活性材料である世界初の証拠を提示した。2)アパタイトとジルコニアの結晶構造をシミュレーションして比較した結果、両結晶が特定の方位で重なると構造的親和性を持ったエピタキシャル配置を取り、非常に強固に結合することを証明した。これにより、実験及びシミュレーションモデルの両面から、Ce-TZPの体内における優れたオッセオインテグレーション能を示した。本研究の成果は著名な国際誌に掲載され、歯科基礎医学会の学会奨励賞受賞にも繋がった。 本研究で得られた知見から、従来にない歯周組織再生能を持つ歯科インプラントの着想に至った。現在、臨床で使用される全ての歯科インプラントは、その表面にセメント質を持たず歯根膜と結合できない。そのため咬合力が直接歯槽骨に伝達され、骨折やインプラント破折のリスクを持つ。本研究で証明されたCe-TZPと骨アパタイトとの優れた結合能から、Ce-TZP表面にアパタイトとコラーゲン線維からなるセメント質を構築可能と推測して、そのアイデアを論文として発表した。 また、チタンインプラントのオッセオインテグレーションと、Ce-TZPにおけるオッセオインテグレーションには差があるとされるが、その違いは明確ではない。チタン表面と骨アパタイトとの結合はジルコニアとは異なるメカニズムで起こると考えられており、その実験的検証を行っている。 以上より、本研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
Ce-TZP以外の材料からなる歯科インプラントと、骨アパタイト結晶との結合様式を調査する。 チタンには骨と直接結合するオッセオインテグレーション能があるため、歯科インプラント材として最も使用されている。しかし、チタンは骨アパタイト結晶と直接結合せず、有機物アモルファス層を介した間接的な結合であると提唱する研究がある。一方で、報告者がまとめたCe-TZPにおけるオッセオインテグレーションは、インプラント内のジルコニア結晶と骨アパタイト結晶とが直接結合している。チタンで提唱されるモデルが事実であれば、ジルコニアとチタンのオッセオインテグレーション機構には明らかな差が存在するが、実際の検証例はほとんどない。 今年度の計画として、Ce-TZPと同様の手法でチタン基板表面に細胞産生アパタイトを形成し、骨アパタイトとチタン結晶との結合様式をTEMにより分子レベルで観察する。チタンと骨アパタイトとのナノスケール結合の実験的証拠を提示し、化学組成分析を併用してアモルファス層の存在を確定し、実態を解明する。 次に、ジルコニア系材料で義歯等に使用されるイットリア安定化正方晶ジルコニア(Y-TZP)に関しても、オッセオインテグレーション能を検証する。材料の表面物性は細胞産生アパタイトと材料との結合様式に大きな影響を与えるため、予備実験として表面物性の測定を行った。結果、同じジルコニア系材料でもCe-TZPとY-TZPでは表面物性に大きな相違があり、Ce-TZPはY-TZPより表面に骨アパタイトを誘導しやすい。今後、チタンと同様にY-TZPと骨アパタイトとの結合様式をナノスケールで検証する。ジルコニア系材料と骨アパタイトの結合様式の評価は、ジルコニア系材料を臨床に効果的に適用する方法を提示する。これは、今後大きな発展が予測されているジルコニア系インプラントに関する臨床応用ガイドラインとなり得る。
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