研究課題/領域番号 |
19K19240
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分57060:外科系歯学関連
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
北島 大朗 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (50817351)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 口腔癌 / 抗癌剤 / シミュレーション / 数値流体力学 / 動注化学療法 / 外頸動脈 / 共通幹 / 舌動脈 / 顔面動脈 / 血流 |
研究開始時の研究の概要 |
口腔癌に対する超選択的動注化学療法は腫瘍栄養動脈にカテーテルを留置することで高濃度の抗癌剤を腫瘍に供給できる。しかし、カテーテル留置は必ず成功するとは限らず、カテーテルの留置が困難である場合は外頸動脈本幹に直線状のカテーテルを留置する従来法の動注となる。従来法の動注において腫瘍栄養動脈にどの程度の抗癌剤が流入するのかは未だに明らかにされていない。本研究ではコンピュータを用いた液体の運動のシミュレーション手法である数値流体力学の手法を用いて、各口腔癌患者の頸動脈内の抗癌剤の挙動を予測し、最小の抗癌剤投与量で最大の抗腫瘍効果を示す患者個別化動注化学療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は口腔癌に対する動注化学療法において、浅側頭動脈と後頭動脈からそれぞれカテーテルが頸動脈あるいはその分枝内に留置された状態を再現した状態での解析を行った。これまで構築した解析手法に倣い、舌癌患者の造影CT angiographyのDICOMデータを3D slicerにImportして患者の頸動脈と外頸動脈の分枝を抽出した。外頸動脈の分枝には上甲状腺動脈、舌動脈(LA)、顔面動脈(FA)、後耳介動脈、顎動脈(MA)、浅側頭動脈(STA)を含めた。浅側頭動脈または後頭動脈から外頸動脈本幹を経て腫瘍栄養動脈へと向かう領域の中心線とその座標を獲得、それに沿うようにカテーテルをデザインした。カテーテルは以下の4パターンを作成した。1)STAから外頸動脈本幹を通り、その先端がLAとFAの分岐部の中間点に位置するもの、2)OAから外頸動脈本幹をとおり、その先端がECAとLAの分岐部の中間点に位置するもの、3)STAからFAに留置されたもの、4)OAからLAに留置されたもの、である。これらを組み合わせて4個の解析モデルを作成して計算格子を付与した。なお血管とカテーテル壁面近傍の速度勾配を十分に解像するためにPrism layerを4~7層配置した。FLUENTの化学種輸送解析によりカテーテル先端から流出する抗癌剤の濃度分布について解析した。出口境界には末梢血管0D(ゼロ次元)モデルを適応することで患者個別の頸動脈内の血流を数値計算上で再現した。結果、カテーテル先端が外頸動脈内に留置されている場合は、STL経由、OA経由ともに抗癌剤はMAに流入する傾向にあった。一方でカテーテルがLA、FAに留置されている場合は投与された抗癌剤の全量がそれらに分布した。しかしこの場合、LAとFAで高い壁面せん断応力が観察された。上記研究成果は日本口腔外科学会関東支部学術集会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共通幹、とくに実臨床で比較的目にすることが多い舌・顔面動脈共通幹内にカテーテルを留置した際の抗癌剤の分布について数値流体解析によりシミュレーションを行ってきた。これまでの研究で患者の血管形状に依存してLAとFAのいずれか一方のみに抗癌剤が流入する場合と50%ずつ程度の割合で流入する場合とがあることは明らかになった。それを規定する因子を模索するために新たな物理学的変数であるLAθとFAθを考案した。LAθは各Mesh重心における速度ベクトルとその重心座標とLA 内の座標(1点)からなる線分のなす角であり,FAθは各Mesh重心における速度ベクトルとその重心座標とFA 内の座標(1点)からなる線分のなす角を表し、それぞれの値が小さいほどその側とベクトルがLA、FAにそれぞれ向かっていることを示す。この変数について2例の患者の血管形状を用いた数値流体解析の結果から吟味したところ、一例はそれらとLAとFAの抗癌剤の分配比と関連していた(FAθあるいはLAθが小さい方に抗癌剤が多く流入した)。しかしもう一例では関連性は見いだせなかった。この原因については患者の血管形状が異なることが主たるものであると思われた。すなわち、先の患者では舌・顔面動脈共通幹からLAとFAが直線的に分岐しているのに対して、他方の患者では角度を持ち分岐していた。LAθ、FAθは流体の流れ場を直線的に評価する指標に過ぎず、曲率のある血管形状に対しては応用ができないことがわかった。 カテーテル2本を留置した際の抗癌剤の分布に関しては今回の症例に関してはLAとFAの分岐部が離れており、かつ外頸動脈が直線的であるがゆえに抗癌剤はMAに流入したものと思われるが、これまでの知見通りに抗癌剤の濃度は移流により輸送されていることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
今回のカテーテル2本を同時に留置した状態での数値流体解析は報告が無いため新たな知見となった。解析対象が1患者のみであるため別の患者では結果やその傾向は変わるものと思われる。とくに今回の症例では外頸動脈は比較的直線的であり、さらにLAとFAの分岐部は距離があり独立分岐であった。その形態学的特徴がゆえに外頸動脈内はその終枝であるSTAに向けて血流により占められることは想像にたやすい。先の報告から、抗癌剤の濃度分布は層流中の流体の基本的な運動である移流と拡散のうち、移流が支配的であることは自明であるため、抗癌剤は外頸動脈内の直線的な血液の流れ場に追従し、かつ本研究では実現象に倣いSTAの末梢側の出口境界を壁面として扱っているためにMAへと流入する傾向にあったものと思われる。ほかの患者の血管形状、とくにLAとFAとの分岐部が近接している場合は、STAからFAに留置されているカテーテルの影響で総頸動脈から外頸動脈(本幹)内あるいはLAへと向かう血流成分は変化するものと思われる。それが起きた場合は抗癌剤の分布も変化し得るものと考えるが、それを定量的に評価することが必要だろう。また壁面せん断応力について、今回の報告ではLAとFAにそれぞれカテーテルが留置されている場合に高い値を示し(それぞれ22.3~23.5 Pa,38.2~38.6 Pa)、FAでは文献的に報告されている動脈壁の降伏応力(37.9 Pa)を上回っている。LAとFAではカテーテルが留置されていても、壁面せん断応力の分布の傾向に違いがみられた。LAとFAでは直径が前者の方が細いものと思われ、一次元的に考えるとLAの方が高いせん断応力がみられるものと想像されるが、この差異に関してどのような因子が働いているのかを探る必要がある。
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