研究課題/領域番号 |
19K19354
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分58010:医療管理学および医療系社会学関連
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
佐藤 利栄 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (20804892)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 湿布依存 / 国民医療費 / インターネット調査 / 患者調査 / 医師調査 / 連続処方 / 不適切処方 / 全国調査 / 医療費削減 / うつ / 不眠 / 依存 / 慢性疼痛 / 医療費 |
研究開始時の研究の概要 |
湿布薬は鎮痛消炎作用のある貼付剤で、急性炎症には有効性が期待できるが慢性疼痛への有効性は低いと考えられる。しかし、湿布薬の処方が十分な診察や患部の評価なしに漫然と行われている。その理由に、湿布への依存が強く長期処方を求める(湿布依存状態)患者が一定数おり、また、医学的根拠よりも患者の希望を優先し湿布薬を安易に処方する医師が一定数いるためと考えられる。そこで本研究では、湿布依存の患者の特徴および湿布薬を不適切処方する医師の意識・行動を調査することにより、湿布の不適切処方の実態を明らかにし、その廃止を提言することにより医療適正化を図り、現在の日本の医療に急務である国民医療費削減に貢献する。
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研究実績の概要 |
本研究は、本来は慢性疼痛への湿布薬の効用が無効であるにも関わらず、慢性と鬱に対して湿布薬の処方を受けることで安心感を得る患者(この患者群を湿布依存と定義した)が一定数いると仮定し、湿布依存状態の特徴を考察し、また、湿布薬の過剰または不適切に処方する医師の意識・行動を調査することで、湿布薬の過剰処方および不適切処方の実態を明らかにし、その是正を提言することで、現在の日本の医療に急務である国民医療費の削減に貢献することを目的としている。 2019年度には調査①として1000名規模の島根県内の農業従事者を対象とした質問紙調査を実施し、湿布依存者の割合や、湿布依存とうつ、不眠との関連を考察した。この結果を踏まえ、2021年度には介入を行わない2つの横断観察研究を行った。具体的には、調査②として全国の国民を対象としたインターネットによる患者調査を実施し、2019年度と同様、湿布依存者の割合や湿布依存とうつ、不眠の関連を考察した。調査③として全国の医師を対象としたインターネット調査を実施し、医師の湿布薬処方の実態を検討した。調査①および②より、高齢者を中心として湿布薬に対する依存を示している患者が一定数おり、彼らは湿布依存でない者に比べ、うつや不眠を合併している割合が統計学的に有意に高いことが判明した。調査③からは、医師は湿布薬の慢性疼痛に対する医学的効果について疑問を持ちつつも、湿布薬処方が患者とのコミュニケーションツールとしての役割を持っていると考え、患者の希望に応じて処方を行う医師の割合が高いことが明らかになった。2023年度は、上記結果を学術論文としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画は3年であり、3つの調査ならびに学会発表や論文作成を行う予定であった。当初はインターネット調査は全国国民に対する患者調査のみ施行する予定であったが、その後医師調査をインターネット調査に変更したため、この変更に伴う遅れが生じた。また、インターネット調査に際して、島根大学医学部倫理委員会の承認を得るのにかなりの時間を要した。加えて、コロナウイルスパンデミックにより、各種調査の施行に遅れが生じた。また、調査結果について、海外での学術発表を行う予定であったが、こちらについてもパンデミックの影響で延期した。さらに、2023年度中盤より、研究責任者が海外留学となり、実質的に研究が進行していないこともあり、現在までの研究の進捗状況としては大幅に遅れていると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、調査①島根県内の農業従事者を対象とした患者調査、調査②全国国民を対象としたインターネット調査による患者調査、調査③全国の医師を対象としたインターネット調査による医師調査はいずれも完了し、その解析結果を得ている。現在、これらの調査結果の論文化に向けて執筆中である。2024年度半ばまで、研究責任者が海外留学となり、実質的に研究が進行しないが、帰国後、この論文化を進める方針である。また、海外における学術発表については、適当な学術集会が見つからず未だ参加には至っていないことから、今後、情報発信の場としての学術集会への参加を検討する。 調査①では、湿布依存とうつ、不眠が関連することが明らかになった。この事実を、ほかの物質依存・行為依存と比較することで、「湿布依存」という状態が存在することの妥当性を示し、社会に発信したい。調査②では、調査①で示された関連性がより一般化されても妥当であったという結果を社会に発信したい。調査③では、申請者が臨床経験で感じていた、湿布依存状態の患者が一定数いるという印象を、調査に参加した医師の半数以上が感じていることが明らかになった。そして、『湿布依存状態の患者が、湿布の効力とは関係なく湿布薬処方を希望し、それに対し一定数の医師は容認して連続処方し続けている』という実態が明らかになった。慢性疼痛への湿布薬処方のように医学的な妥当性が十分に検討されていないにも関わらずプラクティスとして存在している医療について、その事実を社会に発信することで、患者にとって、より適切で、かつ医療経済的にも効果的な医療を提供できる医療適正化への提言を行いたい。そして、これが国民医療費削減につながっていくよう、社会への情報発信に努めていきたいと考えている。
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