研究課題/領域番号 |
19K20550
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
野中 葉 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 准教授 (70648691)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | イスラーム / ムスリマ / ヴェール / 装い / 女性 / インドネシア / ヒジャーブ / 服装 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、「保守化」しているとされる昨今のインドネシアのイスラーム社会の女性たちの装いに着目し、当事者へのインタビュー、テキスト分析、悉皆調査を用いて、女性たちのミクロな語りとその背後にある言説、また全体像を明らかにする。ムスリマのヴェール着用や服装のイスラーム化は、民主化後の当該社会の「イスラーム化」を象徴する一事例として注目され、申請者も研究を継続してきたテーマである。本研究はこれまでの研究成果を基に、ニカーブ着用(目以外の顔までも覆うスタイル)や、SNSが与える影響など、昨今顕在化した新テーマを明らかにしながら、「保守化」時代の当該社会のムスリマの装いの全体像を捉えることを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、「保守化」していると評される昨今のインドネシアのイスラーム社会における女性たちの装いに着目し、当事者へのインタビュー、テキスト分析、悉皆調査を用いて、女性たちのミクロな語りとその背後にある言説、そして全体像を明らかにすることにある。具体的な研究内容として、A) 首都ジャカルタと地方都市マカッサルの大学生と住民を対象とする装いに関する悉皆的調査、B)ニカーブ着用者およびヴェール非着用者への聴き取り調査、語りの分析C)装いの選択や実践を支えるイスラーム的言説分析と設定した。 2023年度は、複数の出版物を通じて、これまでの研究成果を発表した。主なものには、ヴェール着用の強要や特定の型のヴェール着用の強い推奨などを含む、保守化するインドネシアのムスリム社会に対して警告を鳴らす作家フェビー・インディラニの作品分析と社会的なインパクトに関する論考「《マジカル・イスラーム》と現代インドネシアのムスリム社会―フェビー・インディラニが描く危機感と希望」(上記Cに関連)や、前年度までのヴェール着用に関する調査をまとめた「ムスリム女性のヴェール」(BとCに関連)などがある。 また8月~9月の7日間、首都ジャカルタにて現地調査を実施した。市内モールやブティックにて、ムスリムファッションおよびハラール化粧品についての市場調査、デザイナーやファッション業界の起業家たちへのインタビューなどを行い(B関連)、国立図書館にてムスリム女性雑誌を閲覧してムスリム女性の表象に関する資料を収集した(C関連)。 9月には、他のインドネシア研究者と共同で執筆予定の書籍の打合せのため福岡に出張した。本書では、1990年代~2000年代、女性たちのヴェール着用を促した言説構築に寄与したイスラーム小説の訳出とその解題執筆を担当する予定。原稿完成に向け、研究会メンバーから有益なコメントを得ることができた(C関連)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナの感染拡大の影響で、当初予定していた現地調査が実施できない時期が続き、計画していた3つの研究内容のうちAの実施が滞っている。一方でBとCについては、コロナ禍で渡航が出来なかった時期には、言説分析やテキスト分析、文献調査などを通じて研究を進め、また、パンデミックが収束した後には、複数の現地調査を実施して、インタビューや参与観察などを通じてデータ収集を行ってきた。これらには、ヴェールやニカーブ(チャダル)着用に関する言説、また反対に、ヴェールはムスリマの義務ではないとする思想、ハラール化粧品のブームやムスリムファッション産業の発展に伴う女性たちの美意識やファッションに対する意識の変化やその分析などが含まれる。このほか、ニカーブ(チャダル)着用者が参照するInstagramを始めとするSocial Mediaの記述やYouTubeに投稿されたサラフィー系説教師の説教の分析なども実施した。さらには、コロナ禍およびポストコロナ時代のムスリムファッション産業の隆盛、これをサポートする政府の取り組みについても調査し、女性たちの装いの変化への影響を考察した。こうした言説分析、文献調査をもとに、上記に記したものを含む、複数の出版物の刊行や口頭発表を実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの影響を受け、現地インドネシアへの渡航が出来ず予定していた調査などを十分に行うことが出来ない時期が続いたため、本研究課題は2024年度まで再延長して実施することとした。 最終年度となる2024年度は、これまでの研究で得たデータや資料をきちんとまとめアウトプットを出していく一年としたい。先に記した通り、1990年代~2000年代、女性たちのヴェール着用を促した言説構築に寄与したイスラーム小説の訳出とその解題執筆を現在行っているところだが、こちらを完成させる予定。また、コロナ禍明けの2022年と2023年に現地調査を実施し、コロナ禍で一時期停滞したムスリムファッション産業が、ポストコロナ時代に入りその勢いを復活させていること、またこれに商機を見出し、かつ国家の管轄下においてこの発展を後押ししながら、また利用しようとも考えている政府の意図も見えてきた。2022年度に中間発表的位置づけで口頭発表を実施したが、こちらについても論考としてまとめる予定。 本研究はインドネシアのイスラーム社会が「保守化」しているということを前提にしていたが、コロナ禍を経て、その前提事態に変化が生じている可能性が見えてきている。インドネシアのムスリム社会の変化や、業界や政府がそこに与える影響について目を向け、女性たちの服装や装いの変化やそれを支える言説の変化を捉えていこうと考えている。
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