研究課題/領域番号 |
19K20556
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | フェリス女学院大学 (2020-2023) 南山大学 (2019) |
研究代表者 |
遠藤 健太 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 准教授 (20825567)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ラテンアメリカ / 国勢調査 / 先住民族 / 言語権 / 多文化主義 / アルゼンチン / 先住民 / 人種・エスニシティ / アフロ系(黒人) / メキシコ / 人種・民族 / 人種 |
研究開始時の研究の概要 |
ラテンアメリカ諸国の公的な言説における多文化主義の浸透にともない、各国の国勢調査では「人種」に関する調査項目が新設される傾向が生じている。本研究では、これらラテンアメリカ諸国の国勢調査における人種別人口統計の歴史的推移と近年の実施状況を比較分析することを通じて、各国政府が描く人種的自画像(「我々はいかなる人種から成る国民であるか」)の特徴や、理念として掲げられている「多文化主義」の実態を明らかにすることをめざす。
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研究実績の概要 |
2023年度は、ラテンアメリカ(以下「ラ米」)諸国における先住民族の言語権保障に関する制度と政策の分析を進めるとともに、今後の先住民族言語の復興および言語間格差の是正に向けた取り組みと、各国の多文化主義的言説や国勢調査のあり方をめぐる議論との関係性について考察した。分析・考察の概要は以下の通りである。 (1) 日本ラテンアメリカ学会定期大会において、ラ米諸国の先住民族言語と「異文化間二言語教育(EIB)」をテーマとするパネル研究発表に参加し、アルゼンチンの事例についての研究発表を担当した。発表内容は次の通り。①アルゼンチンの国内法における先住民族の言語権保障の進展状況を分野別(教育・医療・司法・マスメディア等)に整理した。②教育分野に焦点を絞り、EIBに関する国内の制度と実施状況を分析し、制度と実態の乖離の要因を考察した。③他のラ米諸国の事例との比較や、汎ラ米な趨勢等について、パネルの参加者らと議論した。 (2) 先住民族の言語権保障をめぐる新たな論点として、AI技術による危機言語復興の可能性と課題、および言語間デジタル格差の克服に向けた取り組みの可能性と課題にも着目した。具体的には、先住民族言語を対象とする音声認識AIモデルの開発と普及に関わる複数の事例を分析し、それらが先住民族の言語権保障に与えうる影響について考察した。特に、AIモデル開発過程における先住民族コミュニティとの協議や合意形成のあり方、文化の盗用や知的所有権の侵害、偏見やステレオタイプの助長などに関する議論を整理し、その成果を所属研究機関内の研究会で発表した。 (3) 上記(1)(2)の研究成果の意義を、「多文化主義時代のラ米諸国の国勢調査」という文脈に位置づけて再考した。特に、公教育におけるEIBの普及と、国勢調査におけるAI技術の導入が、今後の各国の多文化主義的言説に及ぼす影響について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、先住民族の言語権保障や、危機言語の復興および言語間格差の是正に向けた取り組み等についての考察を進め、その成果を日本ラテンアメリカ学会定期大会等で発表することができた。しかし、論文の発表に関しては、当初の計画より遅れが生じている。その理由は以下の2点である。 (1) 一時的に研究以外の業務負担が増え、研究の時間が削られてしまった。 (2) 2023年に生じた世界的な生成AIの普及が、本研究課題のテーマ(今後の国勢調査のあり方、先住民族の言語権保障のあり方)に及ぼす影響の大きさを考慮し、また、今後の研究方法自体を再検討する必要性も意識し、AI関連の情報収集を優先的に行うことが長期的には必要だと判断した。そのため、そちらの作業により多くの時間と労力を割くこととなった。 2024年には、チリをはじめ、本研究課題にとって重要な複数の国で国勢調査の実施が予定されており、国勢調査へのAI技術の導入や、人種・民族問題に関わるAIガバナンスをめぐる議論も本格化しつつある。また、前年度に比べて研究以外の業務負担が減少し、研究におけるAI実用の準備もできてきた。以上を踏まえ、研究期間を追加で1年間延長することとした。これにより論文投稿を含む研究成果の発表を実現できると見込んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度も、ラ米の特定の国の国勢調査の事例に焦点を当てたミクロな分析と、〈多文化主義時代+AI時代の国勢調査と先住民族の権利保障〉をめぐる汎ラ米・世界的な趨勢を捉えるというマクロな考察とを組み合わせて、専門的かつ普遍的な研究成果を上げることを目指す。2024年度に取り組む予定の具体的な研究の概要は以下の通りである。 (1) 2024年に実施されるチリの国勢調査における先住民族関連調査の実施方法等をめぐる政治的議論の経過を分析し、同国における多文化主義的言説の状況を考察する。特に、2019年以降の憲法改正論議における先住民族の地位に関する議論との関わりに焦点を当てる。 (2) ラ米諸国の国勢調査におけるAI技術の導入状況と、各国のAIガバナンスにおける人種・民族問題および言語間格差への対応状況を比較分析する。 (3) 先住民族の言語権保障に関する世界的な動向(特に国連の「先住民族言語の国際十年」関連の取り組み)を追跡しながら、ラ米諸国の言語政策(特にEIBをはじめとする言語教育政策および危機言語対策)の特性を捉える。それを踏まえて、今後の国勢調査における先住民族言語調査のあり方について提言する。
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