研究課題/領域番号 |
19K21747
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分9:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大島 義人 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (70213709)
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研究分担者 |
辻 佳子 東京大学, 環境安全研究センター, 教授 (10436529)
澤口 亜由美 東北大学, 理学研究科, 技術一般職員 (10837785)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2020年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2019年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | 視覚障害 / 実験安全 / 行動解析 / 理系 / 進路選択 / 被験者実験 / 科学的手法 / 実験作業 / リスク / 指針策定 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、理系専攻のカリキュラムの特徴である「実験」が進路選択上のハードルとなっている可能性に着眼し、視覚障害を持つ学生の実験作業について、実験作業の特徴と視覚障害との関係性を整理するとともに、道具の改良や設備の充実といったハード面での整備や、障害の種類や程度を踏まえた支援や指導といったソフト面での指針の策定を通じ、視覚障害学生の実験リスクの低減と、進路選択の多様化の一環としての理系進学へのハードルの解消を目指す。
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研究実績の概要 |
視覚障害のある学生の理系進学へのハードルとなっている可能性が指摘されている実験作業とそのリスクの解消を目的として、以下の検討を行った。 1.筑波大附属視覚特別支援学校にてヒアリング調査および化学実験の見学を実施した。化学実験において、担当教諭の口頭による詳細な描写、手の触覚による実験装置の把握、化学反応を聴覚と触覚で確認する手法などを確認した。また実験室自体に視覚特別支援を目的とした特別な設備はないことから、大学の実験室においても特別な設備を導入しなくてもある程度の実験支援は十分に可能であることを確認した。 2.昨年度実施した実験作業を単位操作に分解し、その単位操作の視覚障害者および晴眼者を対象とした被験者実験に基づき、視覚障害者の行動の特徴や周囲の合理的配慮に必要な要件の抽出を検討した。ディスペンサーからの純水採取操作では、晴眼者が目隠しして操作をすると満タンの認識に大きな誤差があり、水を溢れさせる人もあったのに対し、視覚障害者の場合はビーカーの8~9割でディスペンサーを止め、溢れさせる人は皆無であった。また、秤量皿に粉末を秤量する操作では、全盲者でも晴眼者と同等に秤量可能なグループが存在した。しかし、料理の経験有無や障害が発生した時期とは相関性は見られなかった。このことから、個別の十分なヒアリングが実験研究室での受入には必須であると考えられる。 3.視覚障害者における音響情報の役割について、今年度は比較のために主として晴眼者を対象とした被験者実験を行った。ある実験室での音を晴眼者に聴かせ、人がその音を通常音、異常音のどちらと判断するかをデータとして取得した。機械学習による通常音と異常音との判定と人の判断とを比較したところ、機械的に異常と判断された音は人にとっても概ね異常と感じられているが、機械的には異常と判断されない音でも人間が異常と判定する場合があるという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「1.視覚障害のある学生の実験作業に関する現状調査と課題抽出」については、既往の研究例の調査が順調に進んでいることに加え、筑波大附属視覚特別支援学校の訪問を通じて教育現場の実態に関する知見が得られたこと、さらには同学校の生徒に協力をお願いして被験者実験を実施する道筋が立ったことなど、順調に進捗していると考えている。 「2.被験者実験による視覚障害の有無が動作に及ぼす影響の科学的解析」については、前年度までに取得したデータに基づき、視覚障害者の動作の特徴を解析し、受入教員側の対応として、道具の改良といったハード面と、障害の状態を踏まえた支援や指導といったソフト面の検討の指針が得られたことから、順調に進捗していると考えている。 「3.実験作業における音の役割に関する検討」については、前年度までに確立した機械学習による異常検知手法を活用して、晴眼者を対象とした被験者実験を行い、機械学習による異常と人の耳による異常判定との差異に関する知見を得ることができた。これらは、視覚障害者による被験者実験を行う上での貴重な情報となると期待され、研究は順調に進められていると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
実験作業の特徴と視覚障害との関係性を明らかにする目的で、道具の改良や設備の充実といったハード面での整備や、障害の種類や程度を踏まえた支援や指導といったソフト面での指針の策定について検討を進める。 視覚障害者が必要とする支援について、当事者からのヒアリング、支援している方々からのヒアリングを継続し、意見交換しながら、実験研究で必要な支援、情報提供の仕方について当事者主体で検討を行っていく。また、これらの結果を踏まえて、支援される側と支援する側が共に参加するシンポジウムを開催し。相互のバリア解消に向けた意見交換を積極的に進める。 一方、視覚障害者が実験を伴う研究分野に進学しない理由があるのであれは、視覚障害者自身の進路の選択要因がどこにあるのかを理解する必要がある。そこで、筑波大附属視覚特別支援学校の生徒に、初等・中等教育における科目が好きであったかどうか、趣味、特技、理系科目を学ぶ上での弊害、将来の夢に関するアンケートを実施して、解析する。 視覚障害者を被験者として実験室で発生する異常音のとらえ方に関する実験を実施し、その結果と晴眼者の結果を比較することで、それぞれの音響情報の役割について検討する。これらの差分から視覚情報を補填している聴覚情報、また補填できない視覚情報について明らかにし、実験室における安全支援の基礎的知見とする。 これらの検討結果をふまえ、視覚障害のある学生が安全に実験を実施するための実験作業で用いられる道具の改良や設備の充実といった、ハード面での整備について検討する。併せて、視覚障害のある学生が実験作業を行う際の、障害の種類や程度を踏まえた支援や指導に関する指針の策定を行う。
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