研究課題/領域番号 |
19K21828
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分11:代数学、幾何学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 啓 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (00201666)
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研究分担者 |
荒川 知幸 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (40377974)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 頂点代数 / 4次元超対称性場の量子論 / ゲージ理論のクーロン枝 / 直交斜交弓箭多様体 / Argyres-Douglas理論 / W代数 |
研究開始時の研究の概要 |
頂点代数の理論は、2次元の場の量子論を数学的に厳密な形で公理化したものである。ところが、近年、頂点代数の理論が4次元の超対称性場の量子論の中にも現れることが、いくつかの例で発見されている。これは、超対称性場の理論の典型例である、ゲージ理論だけに限らず、クラスS理論、Argyres-Douglas理論などにも見られている。そこでは、頂点代数の代数的な側面である表現論の構造と、場の量子論の幾何学的な構造、たとえば研究代表者が導入したクラスS理論のヒッグス枝や、Hitchinモジュライ空間の構造が関係している現象が見出されつつあり、新たな例を見出すこと、この現象の背景を理解することを目標とする。
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研究実績の概要 |
中島は,昨年度に続き直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝についてのFinkelbergとHananyとの共同研究を行った.このクーロン枝は直交斜交弓箭多様体という弓箭多様体の変種になる,という作業仮説をおき,直交斜交弓箭多様体の性質を調べた.特に,ヒッグス枝が,偶数次元の直交群もしくは斜交群のべき零錐と,Slodowy横断片の交叉になっている直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝(厳密にはそれになると期待される直交斜交弓箭多様体)を詳しく調べた.横断片を考える,べき零軌道OのBarbasch-Vogan双対をO'とするとき,クーロン枝は,O'の被覆のアフィン化になることを観察した.A型の通常の箙ゲージ理論の場合に対応するクーロン枝は,べき零軌道の閉包であるので,被覆が現れることは直交斜交箙ゲージ理論の新しい点である.ここで被覆は,直交斜交弓箭多様体の定義が特殊直交群,直交群と斜交群の直積によるシンプレクティック商であることの反映であり,特殊直交群をすべて直交群に取り換えることにより,べき零軌道の閉包との関係が見える.
また,ジョルダン箙の直交斜交箙ゲージ理論についてクーロン枝の変形量子化を,同変ホモロジーの局所化の手法を用いて差分作用素で表わした.特にベクトル表現に対応するmatterの数が4の場合に,物理学者の吉田の,この差分作用素は,C^\vee C 型のdouble affine Hecke代数のマクドナルド作用素でありという主張を,クーロン枝の変形量子化の数学的な取扱いの下で,検証したことになる.また,ここでの手法はmatterの数は4以上でも適用可能であり,D型特異点の対称積の量子化の有理Cherednick代数になると期待できる.
荒川は,今年度は本事業による研究は行わなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績で述べた直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝を同定するために導入した,直交斜交弓箭多様体は,新しいシンプレクティック多様体の例である.これは,雑にいえば弓箭多様体の対合に関する固定点集合として定義されるが,弓箭多様体は特異点を持つために,シンプレクティック商を取る前に対合の固定点を取る必要があり,またある場合には既約成分を取る,など微妙な点がある.これらをクリアにして定義を与える必要があった.多くの例を調べた結果,現在は正しい定義を得たと考えている.この定義に基づき直交斜交弓箭多様体を詳しく調べ,特殊直交群のべき零軌道とのかかわりの中に,被覆が現れるなど,興味深い新しい現象を観察した.この新しい現象には,直交斜交弓箭多様体の定義に,直交群と特殊直交群の両方が使われることが関わっており,定義が精密であることの反映である.
直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝が直交斜交弓箭多様体となることを証明するためには,直交斜交弓箭多様体のいくつかの性質をチェックする必要があるが,そのうちの可積分系の構成とその平坦性の証明について,おおむね厳密な証明が得られている.
また,直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝の変形量子化については,今年度からの新しい考察であるが,ジョルダン箙の場合には差分作用素の手法が有効であることが判明した.一般の直交斜交箙ゲージ理論の場合への手掛かりになると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝が直交斜交弓箭多様体となることの証明を完成するために残された課題になっているのは,直交斜交弓箭多様体が分解(factorization)の構造をもつことを示すことである.通常の弓箭多様体の場合の分解は行列の固有空間分解から導かれるが,直交斜交弓箭多様体を対合の固定点とみなして弓箭多様体の分解を制限するというアイデアでは,そのままでは直交斜交弓箭多様体の分解は得られない.そこで,分解の制限を修正することを試みる.直交斜交弓箭多様体は特別な場合にはリー環の普遍centralizerになることが知られているが,その場合の必要な修正はよく知られている.また,双有理座標系(正確には,ワイル群被覆上で定義される)の定義も残されているが,これはいくつかの例の場合の定義と分解と整合的であることから自然に定義が得られるはずである.
また直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝の変形量子化については,Liの考えた対称箙多様体との類似から,量子対称対と関係が期待されている.ヒッグス枝の変形量子化については,特別な場合には有限W代数が現れることが知られていることを念頭におき,ヒッグス枝とクーロン枝の量子化の間にある3次元ミラー対称性とよばれるKoszul相対性の予想を手掛かりとして研究を進める計画である.
さらに,古典型アファイン・リー環の場合に幾何学的佐武対応を証明することに向けて,de Campos Affonsoの導入した対称弓箭多様体と古典型アファイン・リー環に対応する箙ゲージ理論のクーロン枝が同型になることの証明を与える計画である.
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